香川真司選手(C大阪)のブンデスリーガのドルトムント移籍が発表された。香川選手の更なる飛躍には大いに期待したいが、ビジネスの観点から見ると、その移籍条件(移籍金なし、育成費4,000万円のみ、年俸8,000万円(推定)の複数年契約)に就いて些か違和感を覚えた。契約満了という考え方もあるとは思うが、単純に考えて、クラブにとって2006年から選手を育成した対価(含 機会損失)が育成費4,000万円のみでは、「選手を育成する」モチベーションは失われると思う。(勿論、クラブ側の経営努力にも問題はあるが)先ず、香川選手の譲渡価格4,000万円は適正価格だったのか?という点を考察する。ドルトムントと複数年契約を締結したと報じられている事から、仮に2年換算した場合、香川選手は1試合当たり392人を集客していたと評価された事になる。1万3,333人=譲渡価格4,000万円÷チケット代3,000円/人392人/年・試合=1万3,333人/Jリーグホームゲーム17試合/2年間しかし、クラブ生え抜きの香川選手の集客力は392人以上あると考えるのが妥当であり、今回の移籍は交渉負けの印象は拭えない。続いて、適正価格に就いて考察する。適正価格の試算は確かに難しいが、例えば、セレッソ大阪は2008年度実績で営業赤字であるため、敢えて年間営業収入1,940百万円を2010年度登録選手28人で稼ぐと仮定すると、一選手当たり年間69百万円を稼ぐことになる。年度による登録選手数に大きな変動はないと考えられるので、安定的に年間69百万円は稼ぐと仮定する。69百万円=1,940百万円/28人主力選手である香川選手の場合、今後2年間で年間69百万円以上は安定的に稼いだと考えられ、また同選手は21歳と年齢が若く今後の日本代表を背負うと期待されている選手であれば成長率1.0%、および割引率10.0%と見積もると、120百万円位は要求すべきだった事になる。120.6百万円=69/(1+0.1)+(69*1.01)/(1+0.1)^2従って、ビジネス面から見ると、今回の香川選手の移籍は、移籍希望を逆手に取られた割安なDealと言わざるを得ない。ドルトムントにしてみれば、「まあ、獲得してみるか」程度とも言える。一方、「日本人選手に移籍金など設定したら海外移籍出来ない」との声も聞こえそうだ。しかし、既に円熟期に入り、他チームへ再譲渡の可能性が低い中村俊輔選手を横浜F・マリノスが120万ユーロ(約1億5000万円)でエスパニョールから獲得した事を鑑みれば、法外な金額とも思えない。確かに、長谷部選手がボルフスブルグへ、本田選手がVVVフェンロへ移籍した際も育成費用だけであり、現在の日本選手の海外移籍の主流であり、その後の両選手の活躍は高く評価したい。しかし、今回指摘したい点は、最大の受益者は海外クラブであり、日本サッカー界は全く経済的恩恵を受けていない事である。選手個人にしてみれば関係の無い事かもしれないが、「今後の日本サッカー界のためにも、Jリーグクラブは有望選手を買い叩かれるのではなく、経済合理性に基づいたクラブ運営をしなければ未来はない」と指摘したい次第である。
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