オハイオ&テキサスの予備選はヒラリーが巻き返し、とりわけオハイオ州では10%以上の大差でオバマを下しました。次の勝負どころは4月22日のペンシルバニア州予備選ということになりました。今のところ論評を読んでいると、ペンシルバニア州は製造業の衰退が激しいという点でオハイオ州に類似しており、ヒラリーに有利なのではないか、という見方が強いようです。ところで、前回のブログで触れた、ヒラリー陣営の「夜中の3時の電話にどう対応しますか?」の広告でベッドに眠る少女を演じていたケイシー・ノウルズさん(当時は8歳、今は18歳だそうです)は、実はオバマサポーターなのだそうです。(この広告の映像は、ある企業のCMのために撮影されたが使われず、ヒラリー陣営がゲッティ・イメージから購入したのだとか。)ノウルズさんは日曜朝の「グッド・モーニングアメリカ」に出演し、「わたしはこの広告は、恐怖を煽るようで好きじゃない。オバマの、明るい未来を楽しみにしよう、というメッセージの方がずっといい」と言ったのだそうです。そんなニュースに並んでここ数日メディアで話題になっているのが、スティグリッツ教授とハーヴァード大のリンダ・ブライムズ教授の新刊本、「3兆ドルの戦争 (The 3 Trillion Dollar War)」です。イラク戦争の費用に関しては、以前「暗いニュースリンク」の2007年1月18日の記事、「NYタイムズ:1.2兆ドルで何が買えた?」の中では、両教授の見積もりは2兆ドルということでしたが、昨年の「増派」や石油価格の更なる上昇でコストがアップした、ということなのでしょうか。3兆ドル、といわれてもピンときませんが、アメリカの2008年度の国家予算が2兆9020億ドル、ということですから、この6年の戦争で1年間の国家予算は吹き飛んだ、ということですね。もちろんこの3兆ドルという数字は、直接の戦費を含むだけではなく、「イラクに侵攻しなければ、どの費用がかからなかったか」という仮定に基づいて、石油価格の高騰なども考慮にいれられているそうです。ワシントン・ポストには、両教授の署名入りの記事がありましたので、ざっとの訳でご紹介したいと思います。<イラク戦争は3兆ドルとそれ以外に多くの負担を強いる>イラク侵攻から5周年を迎え、この戦争はベトナム以降もっとも長く続き、また第二次大戦以外のどの戦争より高くついている。一般の目にこの費用の規模が目立っていないのは、ブッシュ政権が、緊急対策費として処理される、先払い費用についてしか口にしないからである。これらは月間で120億ドル、アフガニスタンを含むと160億ドルと推計される。しかし、隠れた将来の退役軍人への援助や、傷んだ装備の取替えなどを足していくと、国家予算だけで確実に1.5兆ドルは超える。しかし社会経済に与えるコストははるかに高くつく。一人の兵士が亡くなるとき、家族はわずか50万ドルを見舞金として受取るが、一人の命が失われたことで社会が支払うことになるコストははるかに高い。遺族を本当の意味で「補償」することは不可能だ。さらに傷病軍人への支払いも、兵士や家族にとって十分な補償にはなっていない。兵士が重傷を負った場合、2割のケースで家族の誰かが仕事をやめて介護をしなければならなくなる。さらにすでにエンストしはじめている米国経済にとって高くつく。3兆ドルを超えそうだという見積もりも、控えめなものに過ぎない。ブッシュ政権はイラク戦争開始後も富裕層への税控除をやめなかったので、戦費は負債によってまかなわれている。ブッシュの任期の終わりまでに戦費と、その調達のための負債への累積利息だけで1兆ドルを超える。戦費への負担は、他の優先事項を後回しにする。医療制度の改善、傷んだ道路や橋の大規模な修繕、より設備の整った学校などである。すでに国立衛生研究所、食品医薬品局、環境保護局などを含む国家予算にはかげりが見え、各州や自治体への補助金もイラク侵攻以降大幅にカットされている。今回の不況に際しても、効果的な景気浮揚策を行うには、今年だけで2000億ドルを超える2つの戦争の費用と、急上昇する債務が重荷となる。3兆ドルの浪費をしなければ、最貧国へのマーシャルプランを行い、いまや反米感情でかたまったイスラム国家の心を勝ち得ていたかもしれない。毎月の戦費の半分で世界の文盲をなくしたかもしれない。中国のアフリカに対する影響力を心配する前に、イラクでの戦費一か月分でアフリカへの年間の援助を2倍にすることができた。国内でも低所得地域の学校に予算を割り当てることができた。もしくはブッシュ政権の2期目でするはずだった社会保障制度の改善により、今後50年間の支払能力を確実にできたかもしれない。大恐慌をぬけださせた第二次大戦の記憶のせいか、戦争は経済のためになると経済学者は考えてきた。しかし景気改善にはもっと良い方法 - 市民の福祉を改善し、将来の成長への基礎をかためること−があるといまや我々にはわかっている。イラクでネパール人労働者に支払われる金は、国内で使われる金のように米国の景気を刺激しない。もちろん研究、教育、インフラなどへの投資が長期的にもたらす基盤も提供しない。さらなる懸念は、この戦争が景気にとりわけ悪影響を与えたのは、石油価格を高騰させたからだ、ということである。2003年の侵攻以前、1バレルあたり25ドルだった石油価格は、最近とうとう100ドルを超えた。(もちろん中国とインドの需要増は予測されていたが、中東がまかなえるはずだった。)米国が能力を超えた支払いをする一方で、石油産業と同じく、産油国を中心とする国は貯めこんでいた。ウォール街のシティ、メリルといった金融業がサブプライム問題で破綻に瀕する中、手を差し伸べたのが中国、シンガポールにならんで多くの中東の産油国であったことに何の不思議もない。これらソブリンファンドが米国の資産を買いあさり始めたらどうするのか?ブッシュ政権が次期政権に渡そうとしているのは戦争だけではない。戦費の浪費によって深刻に打撃を受けた経済問題もなのだ。今回の景気後退は過去四半世紀で最悪なものになりそうなのだ。最近まで、米国が何千億ドルも石油やイラク戦争に使いながら、経済に負担をあまり与えていないということは驚きの目で見られていた。しかし謎解きはここにある。FRBが資金の流動性を高め、規制当局が借り手の支払能力をはるかに超えての貸付を見過ごしてきたことにより、経済の弱い部分は覆い隠されていたのだ。その間、銀行や格付け機関は金融の錬金術は、不良な抵当をAAA資産に変えることができるふりをし、政府は家計の貯蓄率がゼロまで下がるのを見ないふりしていた。なんと荒涼とした風景だろうか。景気の後退による最終的な損失(実際の生産力と潜在的な生産力の差)は、大恐慌以来最大のものになるだろう。その合計だけでゆうに1兆ドルを超えると思われるが、それはわれわれの戦費の見積もりの3兆円には含まれていない。地政学的な問題も解決する必要はあるが、経済学的な立場は明らかだ。戦争を終結する、もしくはすくなくともなるべく早く規模を縮小することで、経済面では大きな見返りがある。11月(の大統領選)を控え、世論調査によれば、有権者の主な懸念は経済であって戦争ではない。しかしこの2つを同時に解決する方法はない。米国は今後数十年間イラクでの費用を払い続けることになるのだ。値札の価格が大きくなったのは、ひとえにわれわれが経済の原則を無視し続けたからであり、放置すれば費用はさらに大きくなるだろう。
投稿者: みーぽんのカリフォルニアで社会科 投稿日時: 2008年3月10日(月) 15:56- 参照(281)
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