この記事は
ミステリーツアーへようこそ(その1)
ミステリーツアーへようこそ(その2)
の続きです
第4の扉)甥っ子くん
深い霧に包まれていた昨日とはがらっと変わって、2007年最後の日曜日は雲ひとつない青空となりました。ブラインドを開けると、昨日は何も見えなかったのに、緑に輝くグリーンと、その向こうに真っ青な海が広がっています。
まずは腹ごしらえと、クラブラウンジに足を運びます。オニオン・ベーグルを軽く焼き、クリームチーズを塗ってスモークサーモンを載せたものをほおばり、強めのコーヒーで流し込みます。普段はそれほど食べることのないフルーツも、健康のためとばかりに口にします。
朝食のあとは、散歩に出かけます。まぶしい陽光と海からの潮風を浴びながら、太平洋を見下ろす小道をゆっくりと歩きます。二人で歩くこの瞬間を大事にするかのように、それぞれの歩みに何か意味があってその意味を噛みしめるかのように、いつもよりゆっくりと。
女 「次は何時ここに来れるかな?」
男 「また来たいけど、そうそうは泊まれないよね」
こうして短い短いリゾートホテル滞在は終わりを迎えます。慌しい年の瀬の、たった一泊だけの近場の旅行。いつまでもこの日が、今の瞬間が続けば良いのに! そんなことできるわけがないのですが、そう思いたくなってしまいます。男と女はチェックアウトを済ませると、再び自分たちの住む街へ向かって車を走らせます。
帰りの車中、女の携帯電話が鳴ります。女の親友、M嬢からです。今夜、食事を一緒にしないか?との誘いの電話です。M嬢のところには、M嬢の家族が日本から遊びに来ていて、今夜外食に出かけるのだが、一緒にどうかとのことでした。
特に用事の無かった男と女はOKの返事をします。今夜6時半にサンフランシスコ市内のレストランで待ち合わせることを約束して電話を切ります。
そして、その夜、男と女は、M嬢とその家族が待つレストランに向かいます。
指定されたレストランに入ると、M嬢は既に家族と円卓についていました。M嬢は早速、家族を紹介します。そこには、M嬢の母、姉、甥、そしてM嬢の友人がいました。
まずは、ビールで乾杯して、注文を済ませます。
テーブルにつく前までは、M嬢のご家族とお会いするのもはじめてですし、一体どんな話をしたら良いのだろうと男は考えていました。が、実際、それは杞憂だと分かりました。
この円卓で話題の中心になったのは、なんと言ってもM嬢の甥っ子でした。彼のお陰で、会話が途切れることは全くありません。彼は8歳(間違っていたらごめんなさい)の小学生。なのに話し方はとても大人びていて、落ち着きがあり、とても優しい性格の持ち主なのが分かります。そして、ジャニーズに入れるんじゃないかと思えるほどのルックスの持ち主。その甘い笑顔は、将来、何人もの女性の心を奪うこと間違いないでしょう。
甥っ子は、大人たちが難しい話をしているときは、絵を描いて独りで楽しんでいました。しばらくして絵を描くことにも飽きてしまったのか、女に「ねぇ、何か描いてみて」と言い出します。女は、絵を描くなんて日ごろしていないのですが、「じゃ、何を描いたらいい?」と甥っ子に尋ねます。
甥っ子は、「じゃあ、キッチン!」と答えます。
キッチンの絵を描いてみて!ってのは、なんとも子供っぽいリクエストです。キッチンの絵を見て何が面白いのでしょう?と男は思いますが、それはぐっと飲み込みます。
女は、「わかった」と答えて、キッチンの絵を描き出しますが、なかなか上手く描けないようで、時折「あれ?こんなんじゃなかったっけ…」と独り言をつぶやきます。そして、だんだんペンを動かす速度も落ち、口数も少なくなっていきました。
できあがったところで、女は自信なげに男にその絵を見せます。
男は出された絵を見ながら、
「これは何? あ、そうなんだ。うーん… ちょっと違うよねぇ」
と思ったことを正直に口にします。
甥っ子は、その絵を早く見せて見せてとせがみます。そこで、その絵を甥っ子に渡します。すると、甥っ子はその絵を見るなり、目を大きく見開いて、
「うわぁ~ 上手!! こんなキッチンあったら使ってみたいよ」
と言いながら満面の笑顔を作るのです。
恐るべき小学生… 褒め上手です。
男は完全負けています。
甥っ子は、次々に、これを描いてよ、あれを描いてよ、女にお願いします。そして、女が描きあげた絵を見るたびに、これ以上無いほどの笑顔を作って褒めちぎるのです。
男は、まぁ子供のすることだから…と思いながらもちょっと複雑な心境です。
すると、甥っ子は男と女をどきっとさせる質問をしたのです。
「ねぇ、二人は付き合っているんですか?」
M嬢の家族の手前、そういった素振りは見せていなかったのですが、どうやら甥っ子は男と女の関係を敏感に感じ取っていたようです。
間違いなく甥っ子は女に好意を持っている様子。その後も、甥っ子は女にいろいろな質問や、お願いをし、そしてその女の回答をいちいち褒めちぎるのです。
こうして、甥っ子のペースで会話は進み、あっという間に食事も終わります。
食後のデザートを食べ終わったところで、M嬢が男と女に切り出します。
「このあと、家族を連れて夜景を見に行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」
もちろん、断る理由はありません。男と女は行くと返事をします。
夜景を見に行く場所は、サンフランシスコとオークランドの間にあるトレジャーアイランドになりました。
甥っ子は、
「どうやってそこまで行くの?」
と質問します。M嬢は、
「車で行くんだよ。1台じゃ全員乗れないから2台で行くことになるかな。」
と答えます。すると、甥っ子は、「じゃあ、誰がどこに乗るか決めなくちゃね」と言い出します。M嬢の車と、男の車の2台あるのを確認した甥っ子は、女に、
「男の車とM嬢の車、どっちの車に乗りたいですか?」
と質問します。女は、ちらりと男を見て、うーんと唸ったあとに、
「じゃあ、甥っ子くんと同じ車に乗るよ。M嬢の車だね。」
と答えます。甥っ子は「本当?」と言いながら、満面の笑顔を作ります。本当に嬉しそうです。
こうして、レストランを後にした一行は2台の車に分乗してトレジャーアイランドに向かいます。甥っ子は女と同じ車で、男は自分の車で。この週末、男と女はずっと一緒に過ごして来たのですが、日曜の夜は異なる車に分乗することになってしまいました。甥っ子に奪われたカタチです…。
男は小学生に負けてしまいました。 orz
なんて哀れな男なのでしょう。普段から男の背中に漂う哀愁ですが、このときばかりは、哀愁を通り過ぎ悲愴、敗北に置き換わっていました。
~~~~~~ そして感動の最終話へと続く ~~~~~~
投稿者: Franklin@Filbert 投稿日時: 2008年1月11日(金) 08:47- 参照(228)
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