アメリカ移住に向けて背中を押されたことがいくつかある。旅行とか出張とかでなく、初めてアメリカに長期滞在したのは2000年のこと。日本の会社からこちらの共同研究先ベンチャーへの「出向」という形だった。こういう形態に適当なビザがなく、短期商用のB-1で来た。B-1の扶養家族のB-2というのはそのまま不法滞在への疑いが持たれやすく、取得困難ということで、1年程度の予定だったこともあって単身赴任することに。ただし日本人の場合は、ビザなしでも最長90日滞在できることと、当時まだ上の子どもも幼稚園だったことから、2,3ヶ月まとめて遊びに来るのを2回くらいすれば実質半分近くは家族もいっしょという妥協的解決策もあった。ほとんど右も左もわからない最初の頃に、とりあえず子どもたちの暇つぶしということで、ふと買ったのがディズニーのビデオ「Winnie the Pooh」。くまのプーさんはたくさんの作品があるけれど、比較的最初の方のものだったと思う。歌が主体で、次から次へと歌が続く作品。これに子どもたちが一時期はまったんだけど、実は私もひそかに結構はまっていたのだった。プーが、自分の歌を探すという話で、他のみんなはそれぞれいい歌を持っているのに自分にはないと思い悩む。ピグレットとかティガーとかいった友達たちが励ましてくれる中、自分の歌を探し続けるプー。何をいまさらと言われるかも知れないけど、みんなのキャラが本当によくて、歌もそれぞれとてもいい。途中悪夢にうなされるみたいな部分もあるけど、全体を通じて素直で、のどかで、前向きな雰囲気に満たされていて、見ているととてもおだやかな気持ちになれるのであった。アニメ技術的にどうかとかそういうことはどうでもよくて、何ともいえない「懐の広さ」みたいなものが感じられた。最初の頃、渡米早々いろいろと予想外の事態とかもあって、地に足が着いていないような時期もあった。そんな中、偶然出会ったプーに癒されたのかも知れない。プーは最後に、いい歌を作らなきゃとか、あせって悩む必要なんか全然ないんだ、ただ何かを思ったときに思ったままを口にすればいいんだ、ということに気づき、ハッピーエンドとなる。うそみたいな話と思われるかも知れないが、こういう作品を作る国なら、アメリカでやってみたいなーと思い、そして根拠も自信もないけどでも何とかなるんじゃないかと思うようになったのだった。もうひとつがFMラジオ局のNPR(National Public Radio)。最初はもちろんそういうものがあることさえ知らなかったけれど、客員研究員としてこちらに来て間もない頃、英語のリスニングにいいよと同僚が教えてくれた。それ以来、車ではいつもかけている。何がいいって、それぞれの番組のテーマ曲。多分NPRのオリジナルだと思うけど、これらが何とも言えない雰囲気で、聞くたびになぜかある種のノスタルジーのようなものを感じたものだった。中でも会社からの帰路、夕暮れの時間帯によく聞いたニュース番組のテーマ曲が、頭から離れなくなった。中学の頃、下校時間に校内放送でいつも流れていた曲に何ともいえないノスタルジーを感じたのと同じような感覚。最初の1年間、単身赴任の期間もそれなりにあり、初めての海外で、職場に日本人は自分ひとり、そしてひとり暮らしをする中で、新しい悩みごとや経験とともにそれらの曲が頭に、心に、強く刷り込まれていった。そうするとそれらの曲を聞くだけで、何ともいえず切なく、かといって悲しいわけでもなく、同時に何とも言えずどきどきする、いわゆる甘酸っぱいような?(笑)当時の複雑な感情が湧き上がるようになった。一種の条件反射なのかも知れない。これが聞けなくなるなんていやだ。ずっと聞き続けていきたい。そのためにはアメリカに移り住まなければという、おそらく他人には理解してもらえなさそうな理屈も真剣に考えたものだった。もちろんその他にここの青空も重要だったし、そんな感じで大きな決断のきっかけなんて、もともと思っていたもの(たとえば仕事がどうとか)とは関係ないことだったりするのかも知れない。むしろ実際にはそういう直感的なものの方が大事だったりするのかも。

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2009年4月20日(月) 23:48