ベンチャー/スタートアップのキーワードのひとつに「ストックオプション」があるけど、シリコンバレーにいてさえ、これがどんなものかちゃんと理解していない人もいる。ウェブ検索してみても専門的で小難しい説明が多く、これをわかりやすく説明したサイトがなかなか見つからないのもひとつの理由かも、などと思いつつ、ベンチャーで一発当てるとか大化けするといった場合のひとつの方法としてのストックオプションについて、スタートアップで働く一社員としての立場からの理解を書いてみる。おことわりとしては、現実的なわかりやすさを目的としているので、法的、経済学的に正確であるかどうかは保証しませんということで。ひとことで言えば、会社の一定数の株を、ある決まった値段で買い取る権利ということなんだけど、たとえで説明した方がわかりやすいだろう。あなたがスタートアップで働いていて、オプション価格1ドルのストックオプションを1万株持っているとする。ここでオプション価格というのが、買い取る時の値段。数年後、会社が上場を果たし(IPO)、10ドルの株価がついたとする。そうすると、あなたは一株1ドルで1万株買うのに1万ドル必要だけれども、それを買ってすぐに売れば10万ドルになるので、実際には1万ドル払わなくても差額の9万ドルを儲け分ととして得ることができる。しかしここで気合を入れ、1万ドルはたいて買い、売らずに持っていたら、翌年株価が何と100ドルまで上がった。そこで初めて売れば99万ドルの儲けとなり、億万長者の仲間入り(?)となる。つまり自分たちががんばって会社の価値が上がり、将来株価が上がれば上がるほどと自分たちも大きなリターンが得られるという仕組み。従業員インセンティブストックオプションなどと呼ばれるのはこのためだ。これがストックオプションで一儲けする基本メカニズムだけど、そこにはいろいろなファクターが付随する。まずストックオプションは入社した時点で会社と契約はするものの、すぐに手に入るものではない。通常は入社してから1年経ったところで全体の25%の権利が得られる。上記の例で言えば2500株分ということ。その後3年間の間に、毎月全体の48分の1ずつ増えていって、まる4年が経過したところでようやく100%得られる。この過程をベスト(vest)するという。1年以内に退職したら1株も得られない。そしてストックオプションの権利を行使(exercise)できるのは10年間。10年以内に使わないと無効になるし、別の見方をすれば10年以内に売れる状態にならないとそもそもの意味がなくなる。ただしあくまで買う権利なので、買いたくなければ買わなくてもよい。例えば未上場のうちに権利を行使する(買う)こともできるけれど、会社が将来上場しなければ売れないので、利益どころか投資金額(元本)さえ回収できない可能性がある。ただし上場しなくても別の会社に買収されれば、そのときに合意された株価が自分のオプション価格より高ければ、売って利益を出すことも可能。もうひとつのファクターは税金。上記の例のように、買うと同時に売ることもできるが、その場合だいたいいくら儲かるか事前にわかって、しかもその利益を確定させることができるのがメリットだけど、そうやって得た利益は給与所得と同様に扱われて所得税の対象となるので30%前後の連邦税になる(プラス州税)。一方、オプション契約の日付から2年以上が過ぎ、しかも買って(オプション行使して)から1年以上寝かせてから売った場合、その利益は長期キャピタルゲイン税の対象となって、これは連邦税が15%か場合によってはそれ以下。もしも1億円の利益があった場合、払う税金が1500万円ほども違ってくるということ。ただし1年以上保有する場合、言うまでもなく株価の先行きがわからないというリスクがある。それでも予想より上がればリターンもそれだけ増えるわけなので、リスクとリターンというのはうまいこと釣り合っているものだ。税金に関するもうひとつのリスクは、株を購入した時点で、その時の価値で課税額が決まるということ。つまり買ったまま保有していても(売らなくても)、その含み益だけで翌年課税される。これがバブル崩壊時に多くの悲劇を生んだそうだ。株価がうなぎのぼりだったので、1万株分のオプションを行使した。オプション価格が10セントなので、買うための費用はたったの1000ドル。でもその日の株価は100ドルにもなっていたので、99万9千ドルもの含み益が出た。でも株価は上がり続けているので、もう少し待てばもっと儲かるはず。と思っていたらバブル崩壊、株価が急降下する。こうなるといくら売り注文を出しても買い手がつかない。株価はどんどん下がっていき、含み益はどんどん縮小する。5ドルまで下がったところでようやく売れた。確定した利益は4万9千ドル。ところが翌年の税金は99万9千ドル稼いだものとして計算されてしまった。手元には5万ドル弱のお金しかないのに、30万ドル以上の税金を払わなければならない。しかしIRS(歳入庁)は許してくれない。実際にはこの何倍ものスケールのケースがそれはたくさんあったそうな。株式をすでに上場している公開企業に入社した場合、だいたいそのときの株価がオプション価格となる。グーグルが上場直後の100ドル台の時に入社した人は、その後あれよあれよという間に株価が何100ドルも上がり、ほんの数年でも多額の利益を得ることができたかも知れない。一方700ドルくらいのピーク時に入社した人は、その後株価が下がっているので、現時点では入社時のストックオプションはまったく意味がない。そういうこともあるので、多くの会社は定期的にストックオプションを付与する。ボーナスで出すこともあるし、株価が下がったからというだけで出す場合も以前の会社ではあった。社員にインセンティブを与えるのが目的なので、オプション価格が高くて実際の株価が下回っている(水面下という)人にはあまりインセンティブが働かないからだ。したがってストックオプションで一発当てたい場合、株式未公開のいわゆるスタートアップ、それもかなり初期段階から加わることが重要となる。なぜかというと、加わるのが早ければ早いほど、オプション価格が非常に低く設定されるからだ。会社が起業間もないうちは、まだ何も生み出していないので企業価値、つまり会社の値段が安いとみなされる。ひらたく言えば株価も非常に安いと見なされるということ。事業の進展とともにこの値段は少しずつ上がっていく。初期のうちほどリスクが高いので、うまくいった場合のリターンも大きく、後になってより成功に近いとなるとオプション価格も上がってリターンは少なくなるなるというわけ。さらにあまりいい給料が払えない代わりにストックオプションを多めにという場合もあるし。ここでもある程度ハイリスク-ハイリターンのバランスが取れている。ちなみに一株の値段というのは会社の値段を発行済み株式数で割ったものなので、実際には会社の値段がどう査定されるかと、何株発行されているかで変わってくる。このあたりからは私には説明できなくなってくるのでこのへんで止めさせていただくが、初期の従業員ストックオプション価格は10セント前後であることが多いようだ。そしてバイオテックの場合、IPOするときの株価は概ね10ドル前後に設定される。株価 = 会社の価値/発行済み株式数 なので、発行済み株数が会社の価値の10分の1くらいになっていない場合は、そうなるようにスプリット(株式分割)したりその逆のリバーススプリットしたりして調整してから上場するということも行われる。一発当てるなどと何度も書いているけれど、バイオテックで今から一発当てるのはかなり難しい。まあどのくらいで当たったと考えるかにもよるけれど、一般社員の場合、ストックオプションは1万株とかそんな単位で、しばらく働いていれば追加の付与とかもあって合計数万株くらいにはなるけれど、まあだいたいその程度。IPOして一株10ドルついたとしても、数10万ドルの価値ということ。オプションが数10万株とかの単位になるのはExecutiveメンバーくらいで、そういう人たちはたとえ一株10ドルでも数ミリオン単位のお金になる。自分がファウンダーならばもっともっと持分があるはずなので、これが一般的にいう一発当てるということで、一般社員ではなかなかそうはいかないわけ。そもそも昨年暮れからIPOがほとんどない。いい会社が出ていないというよりは、市場の混乱が大きすぎてそういう環境にないということで、これがいつまで続くのかわからない。大手に買収されるという手もあるけれど、未上場の場合、それほど高い値段をつけてもらえるケースはなかなかない。んー、わかりやすい説明になっただろうか・・・。いずれにせよ、何事も底の時に仕込めというのはセオリーなわけで、こういう時にこそ勇気を出して株を買うなり(私は何も保証しませんが)、何かを始めるなり、とにかくアクションを起こしておくと、もしかしたら後々いい結果につながるかも知れませんよ。
投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2008年11月30日(日) 21:22- 参照(224)
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