時々見ているDND というサイトに黒川清氏の「学術の風」というブログがあって、その中の記事で知った東工大MOT関連シンポジウム「リスクを取る!」。10月8日に行われていて、もうとっくに終わっているんだけど、そのレポートとしてこんなブログ記事も紹介している。リスクを取る名人として依頼された、黒川清氏、坂本幸雄氏、冨山和彦氏、村口和孝氏といったそうそうたる方々がパネリストとして本当に言いたい放題だったようできっとすごくおもしろかっただろうなーと思う。リンクを辿っていくとそもそもの発端はこのシンポジウムを主催された藤村教授の案内の中にあった驚くべきデータであった。それは財団法人社会経済生産性本部が1990年から毎年継続的に行っている「新入社員意識調査」の結果(2008年度新入社員意識調査)を今年も公表しましたが、それによると、「今の会社に一生勤めようと思っている」とする回答が4年連続で上昇し、1990年の調査開始以来最高の47.1%とる一方で、「社内で出世するより、自分で起業して独立したい」とする回答は過去最低の15.8%となり最高だった2003年の31.5%の半分となっています。というもの。そこにあるグラフを見るともっとはっきりしてて、「今の会社に一生勤めようと思っている」という回答は2003年から2004年にかけて微減しているものの、傾向としては2000年に20.5%で底を打って以来、今年までずっと増え続けているのだ。もちろんこれは新入社員の意識調査であって、いかに彼らが一生勤めたいと思っても、実際にそうできるかどうかはわからないけど。もう一点、「社内で出世するより、自分で起業して独立したい」とする回答はピークの2003年から今までずっと減り続けているという。非正規雇用(派遣)の増加やワーキングプアといった社会の現実、それにともなう閉塞感や諦観なども当然関与しているのだろう。最近の学生は意外と(というか就職希望の学生は昔からずっとそうだったが今でもやはり)大企業志向だというのは聞いていたけれど、同時に起業志向、ベンチャー志向の学生もそれなりに増えてきているんじゃないかと漠然と思っていたので、驚いた。こういったデータを前提に、パネリストたちは学生たちにがんがん叱咤激励の言葉を浴びせたようだ。ただちょっと気になったのは、その中の二名の方が、大企業なんてだめだ、無駄ばかりだしろくなことはない、行くべきじゃないという趣旨のことを述べられていたらしい。自分が参加していたわけではないので、そのセリフのトーンも前後関係もわからないのだけれど、これは実際に大企業を飛び出してその後いろいろな意味で成功した方々からよく聞かれるタイプのセリフで、私は以前からちょっと引っかかるものを感じていた。大企業はいろいろなことをしっかりうまくやって成功してきたから大企業として存在しているのであって、確かに官僚主義的になったり動きが鈍かったりとか、問題を挙げ始めればきりがないけど、新卒の新入社員にとってはそういう10年20年後に主に抱えるフラストレーションはまだほとんどなくて、一方で得られるものはすごくたくさんある。まわりに優秀な同僚や先輩が多く、プロジェクトも多いので、本人さえやる気があれば実に多くのことが学べるし、日本の大企業はそもそも新入社員をトレーニングして一人前に育てるという文化があるので、最初は使い物にならない新卒が数年から10年くらいかけてしっかりしたプロフェッショナルになっていくことができる。何度も言うけど本人さえしっかりやる気があって、かつそういった環境に適合性があればだけど。これはバイオ、製薬業界だけにあてはまることなのかも知れないけど、起業しろもっと起業しろと言われても、大学出ていきなりバイオベンチャーの起業なんてふつうはあり得ない。バイオ系スタートアップの平均年齢はすごく高い。ほとんどの社員がしっかりとした経験のある即戦力ばかりで固めて始めるからだ。最初は20代の社員なんてはほとんどいない。これはIT系との大きな違いだろう。そして多くの人に大企業経験がある。つまり(製薬)大企業は、現実の社会の中では即戦力となる人材育成機関としても機能しているのである。スタートアップでは新人をのんびりとトレーニングしている余裕はないので、最初のうちは新卒なんか取らない。だから少なくともバイオ系では卒業後いきなりスタートアップに加わるというのはいいアイデアではないし、実際非常に難しい。まずは大企業に入ってしばらくしっかりとトレーニングして、その後起業するなり、おもしろそうなベンチャーに参画してみるというのが、より現実的な流れなのだ。大人が学生にキャリアプランを押し付けてもしょうがないけど、一生同じ会社で働きたいと思っている若手社員には、そういうpathがあり得て、むしろ大組織を飛び出して大洋にぷかぷか浮いてるドリフターズ気分くらいの方が実はより安定感があるかも知れないんだよということを、もっとお知らせしたいなと思う。ついでによくある誤解についても書いておく。「大企業は会議ばかりに時間を取られて効率が悪いけれどベンチャーはそういうことがない」というのはウソだと思う。日本のスタートアップは経験がないのでわからないけど、少なくともウチでは社員20人にも満たない頃から80名くらいの今まで、マネージャーやディレクターかそれ以上の人たちはしょっちゅう会議ばかりしているのが現実だ。ちょっとステレオタイプな表現になるけど、一般的に西洋人は日本人よりも議論が好きで得意で、いつも話が長くなる傾向があるように思うのと、仕事のアウトソース割合が高いとどうしても電話会議とかが増える。もうひとつの大きな理由は、常識や国籍や各種のバックグラウンドが違う人たちが集まって事業を進めていくには、例えば日本人だけでやるよりも多くの時間をミーティングに割いて、相互理解やコンセンサスをはかる必要があるのも確か。もちろんそういうところからおもしろい発想が出てくることもあるわけですが。追記力んでいろいろ偉そうに書いてしまいましたが、私自身が大学から大企業に就職したときは、そのまま定年まで勤めるのだということにこれっぽっちの疑問も持っていませんでした。その昔、禁煙商品のCMの中の「わたしはこれ(と小指を立てる)で会社を辞めました」なんていうセリフが流行ってたくらいですから、会社を辞める=かなりネガティブなことだったわけですよね。でも今どき大学を卒業する人たちにはそんなイメージはないと思うのですが・・・。
投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2008年10月26日(日) 17:37- 参照(195)
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