合成化学者の間では、この二つは似ているとよく言われる。何かと何かを、何か(水とか油とか有機溶媒)の中で混ぜて、時には加熱したりして、何か新しい物を作り出すと言う点で、かなり共通する部分があるからだ。合成化学でも料理でも、手早く効率よく正確にいい仕事をするために、つまり鉄人となるために、ひとつの鉄則がある。それは、ひとつのことが終わったらすぐに、原状復帰すること。これに尽きる。優れた料理人は、料理を作り終えた時に片付けも終えているという言葉もあるが、まさにこれである。ひとつの作業が終わったら、使ったものはすぐに片付け、さっと洗える物はさっと洗ってしまう。洗い物には、洗剤でていねいに洗う必要があるものと、さっとすすげばいい物がある。このあたりをきちんと区別する。繰り返し使う必要があるものは最優先で洗う。ちょっとした待ち時間に、基本アイテム(調味料とか)を補充し、作業中に「あれがない!」ということがないようにする。捨てる物は捨て、仕事場をもとに戻して次の作業ができるスペースを確保する。基本的にはこの繰り返しである。原状復帰ができないと、使い終わった物がたまっていき、器具や容器(食器)が足りなくなり、そのうちにっちもさっちも行かなくなって、すべての作業を中断してしばらく片付けの作業に専念しなければならなくなる。こうなると生産性はがた落ちだ。さらに言えば、次の作業、その次の作業を頭の中で想像し、準備がいるものはさっさと準備しておく。現在の後に続く手順をいつもイメージしておく。とにかく頭の中ではいつも数歩先を行って、最も効率的な手順を考えることが重要。これは合成化学だけではなく、おそらく実験をともなう研究活動全般に言えることなのではないかと思う。キーワードは「原状復帰」。

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2007年5月16日(水) 23:07