朝から愛妻の声が家中に響く。よく通る澄みきったソプラノのどなり声だ。
最近娘が叱られている内容を聞くと、まさに父親である自分にも心当たりのあることが多い。
遺伝子鑑定の必要はない。よくもまあ、○いところばかり似たもんだ。
内容を書き出すと切りがない(恥ずかしい)ので省くが、まあ、何度言ってもわからない、人の話を聞いていないというところに尽きる。
よそ様の家庭なら、そこで「お父さんからも言ってください!!」となるところだろうが、うちの場合、問題は父娘共通なのでそれもできない。それでもたまには父親の威厳を示す必要があると思い、朝、学校に送る車の中で、一言訓示を垂れることにした。
ラジオのボリュームをしぼる。ルームミラーを少し下向きにし、娘の顔を確認する。
「朝気持ちよく家を出て、楽しく学校に行くために、最低限のことは自分でやろうよ。そのために夜のうちに準備できることはやっておいて。などなど。極めてシンプルに、あくまでも優しく。
ミラーの中の娘はいつになく真剣な顔だ。やはりアドバイスは怒鳴るんではなく、諭すのが大切だ。
話せばわかる歳なんだから。これは一度妻にもアドバイスしたいが、反論に反論する自信はないのでやめよう。もう一度ミラーに映る娘の顔を見ると、正面の一点を真剣に凝視している。そこにはラジオがある。
「ねえ、今あなたがなにを考えているのか、おとうさんが当ててみようか?」
「え? なあに?」
「今かかっている歌を聴きたいから、ラジオのボリュームを大きくして欲しい!!」
「わー、おとうさんすごい!! どうしてわかったの? 親子だから?」
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