Treprostinil(一般名)というのは、アメリカのUnited Therapeuticsという会社が開発したプロスタサイクリン(PGI2)誘導体で、肺高血圧症の治療薬として皮下注(Remodulin)または吸入剤(Tyvaso)として米国では2002年から使われてきています。

この化合物が、Orenitramという商品名の経口の除放製剤としてFDAから認可されました。

プロスタサイクリン(PGI2)というのは、生体内でほんのわずかな量だけ作られるオータコイド(または局所ホルモン)と呼ばれる生理活性物質のひとつで、肺動脈(だけではありませんが)に対して強力な血管拡張作用があり、Epoprostenolという一般名で、重症の肺高血圧症の治療薬として使われてきています。

ただしこの物質、非常に不安定で、血中半減期がほんの数分という、大変に扱いにくいものなのです。なので静脈にカテーテルを設置し、投与開始直前に溶解した薬剤を保冷パックで携帯し、ポンプでゆっくりと持続静注するという大変な方法で使われています。

そんな中、東レが経口投与可能なほど安定なプロスタサイクリン誘導体(ベラプロスト)の開発に成功し、日本では1999年に認可されています。ただし注射剤ほどの有効性が示されず、海外では認可されていませんでした。

そのため日本以外では、今まで経口プロスタサイクリン剤の選択肢がなかったのが、これで米国でも経口剤がラインアップされたことになります。ただ臨床治験の成績はちょっと微妙で、全部で3つのフェーズ3が行われたようですが、投与開始後6週間での6分間歩行の距離がプラセボよりも23 m増加したのがp = 0.013で有意差あり。あとの2回はそれぞれ11 m (p = 0.072)、10 m (p = 0.089) と有意差つかず。それでもいいんですか?という気がしないでもありませんが、それだけ切実なニーズがあるということです。

ところで日本発の経口剤ベラプロストはこれよりも効かなかったの?と思うわけですが、こちらのページによれば、ずっと前の90年代に欧州でも米国でも6分間歩行で有意な改善が認められたとあります。なんでこのときはダメで今回の微妙な結果はOKなのか?そのあたりはちょっとギモンですね・・・

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2013年12月24日(火) 21:30