以前、「トカゲの唾液から新薬」というネタを紹介しましたが、今度はかたつむりのつばから鎮痛薬が?という話。しかも経口投与で効くペプチドという、業界の常識をくつがえすものです。C&EN 7月26日号の記事からですが、もとの論文はこちら。海中に住むmarine cone snailというかたつむりは、魚を食料とするらしいのですが、目の前を通りすがる獲物に向けて、針のような歯をモリのように突き刺し、conotoxin(コノトキシン)という毒素を注入します。コノトキシンはモルヒネに匹敵する鎮痛作用が知られていて、しかもモルヒネと違って依存性がない点がいいのですが、なにぶんペプチドなので経口投与ができず(ペプチドやタンパクは胃や腸で消化、分解されてしまうので)、薬としては開発が難航していました。今回、David J. Craikさんが率いるオーストラリアのグループが、コノトキシンを経口投与可能にする方法を開発しました。彼らはα-conotoxin Vc1.1という16アミノ酸からなるペプチドのN末とC末を6つのシンプルなアミノ酸をはさんで結合し環状にすることで、生理活性を保持しつつ、ラットのモデルでは経口投与でも分解されずに吸収され、神経障害性の痛みに対してスタンダードな鎮痛剤と同レベルの活性があることを見つけました。この発見の経緯ですが、実は70年代にアフリカのコンゴで、女性が出産の際に飲むことで、出産が短時間で済むといわれるお茶がありました。Lorents Granという研究者によって、その活性本体はKatala B1という物質であることが突き止められましたが、その化学構造は90年代になるまでわかりませんでした。Craikはこの研究を知り、煮出しても分解されず、しかも経口摂取で効果があるペプチドなら、何か特殊な構造をしているに違いないと考え、調べた結果、この物質は29アミノ酸からなるペプチドで、N末とC末がつながった環状であり、さらにその途中もジスルフィド結合で縫い合わさった構造をしていることを解明しました。それ以来、Craikは環状ペプチド(サイクロタイドと呼ぶ)の研究に打ち込み、今回の発見に至ったということです。Craikは現在、このseedを医薬品として開発するための資金調達に奔走しているとか。もしもこれが成功すれば、医薬品開発の歴史における大ブレークスルーとなる、非常に楽しみな研究です。
- 参照(146)
- オリジナルを読む