前回の「シリコンバレーで働く方法」は、「日本人がシリコンバレーで働くのに一番確実な留学→就職という方法をとる人が少ないね」というエントリーだったのだが、「そもそもシリコンバレーにどうしていかなきゃならないんだ」という思いがけない角度からの突っ込みコメントが複数きた。私は「相対的」に「留学→就職」比率が少ないということを書いたのだが、「絶対数」に関してのコメントが来た訳です。それも含めてなんだか沢山コメントいただいたので「続きエントリー」です。最初に言っておくと、「どうしてシリコンバレーに行かないといけないんだ」という問いに対する答えは「いや、全然来る必要ないし」。面白いと思う人、来たいと思う人だけくればよいのではないかと。でも、何が面白いかは伝えたいと言うのがこのブログの基本の主旨だったりします。というわけで続きエントリーその1の今日は「シリコンバレーに来ないと享受できないメリット」。一言で言うとnetwork externality。ネットワーク効果、またはネットワーク外部性と訳される。奈良産業大学のサイトよりネットワーク外部性とは、「同じ財・サービスを消費する個人の数が多ければ多いほど、その財・サービスの消費から得られる効用が高まる効果」をさします。たとえば、FAXが世の中に1台だけしかないとすると、その FAXは全く機能しません。利用者が少なければ、FAXを利用する価値は乏しいと考える人も多いでしょう。逆に、FAXの利用者が増えれば、通信できる相手が増えるので、それだけ FAXの価値が増すことになります。FAXそのものの性能とは無関係に、利用者の数に依存して価値が変化するのです。Skypeを世界で一人だけがインストールしても使い物にならないが、100万人くらいがインストールすると、おお、こりゃ便利!となる。Skype自体の機能は変わってないので、大勢が使うというのは「製品の外側」にある変化な訳です。だからexternality。で、シリコンバレーには人材のnetwork externalityが働いているのであった。いくつかあって、1)採用候補となる人材の多さ引っ越ししなければならないほど遠くの会社に転職するのは大変だが、同じ家から通える会社だったら気軽にできる。ということで、同じような人材を雇用する雇用主がたくさん集まっていると、会社は採用がしやすい。というわけで、技術系の会社がシリコンバレーに集まっているわけだが、もっとローカライズされた傾向もあって、例えばIntelの周りには半導体ベンチャーが多い。Intel社員に夜バイトに来てもらう、そのまま転職して正社員になってもらう、てなことが容易なので。(これは逆向きも真なり。「転職先の会社が沢山ある方が、働く側も住んでて安心」となる。)2)エンジェル投資家の豊富さエンジェル投資家は大抵自分も起業して成功した人なので、技術も起業家の気持ちもよくわかる。過去の成功の蓄積のかいあって、特にここ10−15年くらいエンジェル投資家の層が増してきた。3)投資家と非投資家が近くにいることによるコミュニケーションの円滑化ベンチャーキャピタルは、軽やかに車で行ける範囲の会社への投資がメイン。投資先の管理・指導といっても客観的に点数でするものではなく、会って話して臨機応変に対応していかないとならので。どんなにいい技術を持ったベンチャーでも遠かったら投資しない、というVCは沢山ある。4)知恵の伝播の容易さ属人的に蓄積する知識が、face to faceで会えることで伝わりやすい。増資の際の交渉の仕方とか、採用の仕方とか、プロダクトマーケティングのあり方とか、いろいろ。5)アイデア共有の容易さアイデアは多くの人に共有されることにより、より価値が増す、という不思議な財。上記の4の延長線上にあるのだが、「近く出会えることでアイデアの共有がより容易になる」ということがある。(特にまだ秘密に近いアイデアでは、メールで文章にして出したくはないが、会って話す程度には開示できる、というレベルものが多々ある。)参照:Paul Romer***というわけで、「アーラ不思議、自分個人の能力は変わってないのに、シリコンバレーに来るだけで価値が上がる!」ということが人によってはあり得る訳です。通信のnetwork externalityはわかるけど人のnetwork externalityはピンと来ない方は、自分が電話機とかファックス機になったところを想像してみてください。え、余計わからない?ううむ。もとい、locationによるnetwork externalityは、「先行者利益」とでもいいますか、「先に集積したもん勝ち」。(人間に依存するので、イノベーションに必要とされるスキルが大幅に変わる時が、新しい場所に優位性が移るターニングポイントになります。)前エントリーのコメントでshiroさんがリンクしてくれたPaul Grahamのエッセーの和訳もよろしかったらご参照あれ。「シリコンバレーが出来るには」https://d.hatena.ne.jp/lionfan/20060802「ベンチャーがアメリカに集中する理由」https://d.hatena.ne.jp/lionfan/20070204「なぜスタートアップハブに行くべきなのか」https://www.aoky.net/articles/paul_graham/startuphubs.htm「シリコンバレーは金で手にはいるかも」https://d.hatena.ne.jp/lionfan/20090301***次回は「来なくてもわかることが沢山ある」の方に行きます。
投稿者: On Off and Beyond 投稿日時: 2009年3月10日(火) 00:32- 参照(203)
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