俗に、「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」 といわれる鰻職人の修行だが、なんとボクは、串打ちも裂きも飛ばして、いきなりこの店の焼きかたに任命された。朝店に出てシャッターを開ける。焼いた鰻や肝焼き、カマ焼きなどを並べるショーケースを店の前に引っ張り出すと、6坪ほどの店内が少しだけ広くなる。蒸し器にお湯を張り、焼き台に火をつけ、掃除をしながら鰻の到着を待つ。
Sさんが朝裂いて串を打った鰻を白焼きし終える頃、M社長が出てくる。最低20分から25分は蒸す。指で押してみて、社長がオーケーを出すとタレの入った壷に鰻をつけて焼く。もう一度つけて焼く。これがもう熱いのなんのって。焼き台の前に立つだけで暑いのに、3本串4本串ならまだしも、大き目の6本串、姿焼きになると8本の串が並ぶ。これらの串を両手の指の間に挟むのだがこれが熱い!!もちろん両面を焦がさずこうばしく焼かなければならないので、焼き台の上下で鰻を入れ替えたり、裏表をひっくり返す動作も必要になる。
蒸す前の白焼きはまだ硬いので、すこしくらい雑に扱っても大丈夫だが、蒸した後はきちんと串を持てないとすぐ崩れてしまう。一度社長が姿焼きを焼きだしたとき、お向かいのラーメン屋のおかみさんが、「社長、タン麺あがったよ!!」 と言いに来た。するとなんとこの社長、「おい、あとは頼むぞ」 と言って、出て行くではないか。
両手を水に浸け充分に濡らして串を持つ。熱い!!。もう一度水に浸けて・・・熱くて持てない!!
団扇で煽ぎ、串周辺の空気を冷ましてその隙に・・・持てない!! ああ~~串に火がついた!!!
「社長!! 串が燃えてます!!! 」 「バカ!!早く火から降ろせ!!」 と言ってタン麺を食べていた社長が店に戻ると、そのときにはもう串がほとんど焼け落ち、それを取ろうとした社長も 「アッチッチ~~」 と真っ赤な顔をして飛び跳ねていた。
今でもこの時の熱さと、社長の顔色は鮮明に覚えているのに、この後の記憶がないのは、どうしてだろう?
投稿者: 寿司豊味ととろぐ Sushitomi 投稿日時: 2011年9月27日(火) 16:36- 参照(143)
- オリジナルを読む