先週、ボロン(ホウ素)ケミストリーに関するコンサルタントに来てもらう日があった。うちの会社とアドバイザリー契約を結んでいて、年に数回来てもらって、先方の最近の研究に関するセミナーと、その時々に応じてラウンドテーブルだったり1 on 1だったりのディスカッションをして、こちらからのアップデートや困っていることを相談したりする。個々のやり方はいろいろだろうけど、企業がアカデミアの専門家をアドバイザーとして活用するというのはとても一般的なことで、日本でももちろん行われている。しかしアメリカの大きなアドバンテージは、世界中から研究者が集まっているためにトップレベルの専門家の数が圧倒的に多く、しかもみんな英語でコミュニケーションできるということだ。何を当たり前のことをと思われるかも知れないけれど、ただセミナーをありがたく聞くだけならともかく、その領域で最先端の、時にはまだ誰も答を知らないような問題について突っ込んだ議論をしたいときに、しかも研究グループのみんなでその内容を共有したいときに、日本の企業で英語しか話さないアドバイザーを呼んできても、期待した成果を得る、つまりそのアドバイザーの知識を「しゃぶりつくす」のは今でも難しいのではないだろうか。アメリカ国内であれば、自分の会社がフォーカスしている分野のエキスパートを見つけると、とりあえず来てもらって、セミナーをしてもらうということをよくする。セミナーに加えて、ラウンドテーブルというスタイルでいろいろとディスカッションをし、その人が自社にとって有益なアドバイザーとなり得るかどうかを判断する。これはと思って呼んだ人が期待はずれなこともあるからだ。もちろん本人にそんなことは言わないけれど、ある意味ジョブインタビューみたいなものである。そしてこれはと思われた先生には、コンサルタント契約をお願いすることになる。もちろん日本企業もこういうことはやっている。ただし研究者リソースの豊富さと、お互いそういうことを容認するというか、ある意味何でもありの非常にフレキシブルなカルチャーという点では、その内容にはちょっと違いがあるような気がする。サイエンスのそれぞれのフィールドで、トップレベルの研究者同士というのは、当然お互いコンペティター同士ではあるものの、同時に同じことに興味を持つ仲間でもあり、第3者には伝わらない情報交換もある。こういう輪の中心にいる、ハブ的な人をアドバイザーとしてつかまえると、芋づる式にいろいろな情報が出てくるという効果もあるわけで。日本人研究者の場合、このハブ研究者とつながっている(つまりトップレベルの輪の中にいる)人はたくさんいるだろうけど、世界の中で、ハブそのものになっている人はやはり少ないのではないか。世界を見据えて仕事をするためには、日本企業は何らかの形でそのディスアドバンテージを克服しなければならない。だったら自前で有無を言わせないだけの研究をしてみせるみたいな方向に走る、つまり気合と根性で乗り切ろうとすると、どうしても無理をすることになるので、過労や欝といった副作用が出てくる。それよりは、時間はかかるけれど、やっぱり英語を聞く/話す能力を上げる方が、長い目で見れば効果は大きいんじゃないかなというのが一点。以前、ビジネスデベロップメントのお手伝いをしていたときに会った日本企業の方で、とても英語が上手な方がいた。私も同僚も、この人は絶対帰国子女か留学経験がある人に違いないと思って聞くと、どちらでもないという。じゃあどうやって英会話ができるようになったんですかと聞くと、「駅○留学」ですと。「駅○留学」だけでこんなにできるようになることもあるんだと知って、とても驚いた。多分「駅○留学」という言葉はわかりやすい例えとして使われていて、彼が実際にNOV○に行っていたのかどうかは定かではないけれど、要は本人の取り組み次第なんだなあと思った。ただし前にも書いたことがあるけれど、もうひとつの、おそらくもっと重要な問題は、コンサルタントの使い方そのものだ。ひとたび機密保持契約を結んだら、何もかも全部開示すること、これにつきる。肝心なこと、あまり都合がよくないことを隠していたのでは、上記のように「しゃぶりつくす」ことは絶対にできない。それはつまりしゃぶれなかった分だけ自分たちが損をするということ。コンサルタントが日本人であれ、外国人であれ、それは同じこと。日本企業のみなさんに、おこがましいのは重々承知の上で、それでもなお、隠すな!全部ぶっちゃけろ!と言いたい。

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2009年4月12日(日) 22:43