こちらも昨日と同じ号のChemical & Engineering Newsから、2001年の炭疽菌事件解明かという話。そのソースはLA Timesのこちらこちらやさらにそのフォローアップ記事のようです。2001年9月11日の同時多発テロに続いて、東海岸で封筒に入れられた炭疽菌がホワイトハウスや米議会、連邦政府の省庁舎、メディアなどに送りつけられ、これを扱った郵便局職員や記者、病身職員などが白い粉に固定化された菌を吸入して感染、死亡した事件をご記憶の方も多いと思います。この事件はずっと未解決で、一時は迷宮入りかとも思われましたが、FBIなどが根気強く捜査を進めていました。長い話を短くまとめると、7年間におよぶ最新のテクノロジーを駆使した調査を積み上げて、FBIはようやくその核心に迫ります。そして連邦検察官が、手紙の送り主として軍関係の感染症研究施設であるUSAMRIID (U.S. Army Medical Research Institute of Infectious Diseases))の研究者であるBruce Ivinsを逮捕、起訴しようとした矢先、Ivinsは自殺しました。Ivinsはその所属からもわかるようにこの道の専門家。Ph.D.取得以来、30年近くにわたってこの病原菌に関する研究をしてきたそうです。実際にFBIの捜査にも菌の同定や分析などでずっと協力してきたのだそう。2003年にはその貢献によって、Decoration of Exceptional Civilian Serviceという、政府から民間人に贈られるものとしては最高の賞も受賞しました。一方FBIは、他の民間企業とも協力しながら犯行に使われた菌の同定を進めてきました。独特の遺伝子解析手法により、最終的には1000以上もの炭疽菌単離株(細菌はとても簡単に変異するので、同じ名前の菌でもどこから単離されたかで遺伝子構成がそれぞれ微妙に異なる)のうちのたった8株に、犯行に使われたものと同じ、特徴的な4種類の遺伝マーカーが見つかりました。そしてこれら8株はすべて、USAMRIIDに保管され、1977年以来Ivinsたったひとりが管理していた単一の株から直接誘導されたものであることがわかりました。5名が死亡、17名が感染に苦しんだという事件ですから、その解決にかけるご遺族、被害者の思いは想像するに余りあります。現段階では被疑者死亡という結果で、最終的には証明が困難になったかも知れません。米軍組織の内部に犯人がいたかも知れないという、まるで映画のような話ですが、Ivinsの周辺では、彼は無実だと訴える人たちもいるようです。いずれにしても、7年間に渡りこの事件を追い続け、ここまで解明したFBI捜査官および関係者の努力には敬意を表したいですね。

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2008年8月24日(日) 11:00