いやー、お久しぶりです。3ヶ月も休んでしまいました。ちょっと体調が悪くて。いろいろな方から「大丈夫ですか」とメールを頂き、私のブログに読者がいることがわかりました。めでたいめでたい。さて、再開にあたり、いきなり読書感想文です。The Omnivore's Dilemma。「雑食動物(である人間)のジレンマ」というタイトル。ちょっと前の本ですが。「正しい食生活とは何たるや」とあれこれサイトや本を読み漁ったうちの一つ。「恐らく絶対体に悪そうな食べ物、というのはあるが、反対に必ずや体に良いという食べ物はない。何でも食べられる、というのはラッキーな反面、『何を食べようか』と常に頭を悩ませなければならないのが雑食動物たる人間のジレンマ」という感じですな。本が書かれた背景として、そもそもアメリカ人の食生活はめちゃくちゃ。朝ごはんアイスクリーム、昼ごはんピザとコーラ、夕ご飯ポテトチップ一袋、みたいな人が結構あちこちにいる。「ハンバーガーにはレタスとピクルスが入っているからバランスが取れている」てなことを本気で言う人も。確かにマクドナルドのマニュアルにはそう書いてあったのだが。その上、猛烈な量食べるし。(一時期話題を呼んだマクドナルドのスーパーサイズは42オンス、1.2リッター強。1回一食一人分です。ごく普通に子供でも飲んでる「ラージ」ですら32オンス、1リッター弱もある)。もちろん、一部の人はものすごく気を使っているのだが、その気の使い方が日本人の感覚からするとなんかちょっと違う・・・という感じの人も多い。ポテトチップとかバリバリ食べながら、ビタミン剤を何錠も朝昼晩飲んで、「栄養満点」と宣言したり、ベジタリアン・・・なのはいいのだが、豆腐のようなオカラのようなモノで作ったなぞのパティ状物体にケチャップを大量にかけてハンバーガーとして食べてたり。こうした食文化を背景に書かれたのがこの本。結構「えー!?」と驚くことがかかれてます。たとえば、アメリカの添加物文化を作り上げたのが、とうもろこし=コーンだそうな。ヨーロッパから移民してきて何とか小麦を作ろうとしたがダメだったが、とうもろこしはがんがん育ち、さらに改良を加えて、安価に大量生産できる農業体系ができたため、それをどうやって使うか、と頭を絞った結果、驚くほど多彩なものがコーンから取り出せるようになったそうな。コーンスターチあたりはふむふむ、という感じだが、ビタミンC(ascorbic acid)、レシチン、マルトデキストリン、乳酸、リジン、キサンタンガムなんかも全てコーンから作られる。そして諸悪の根源たるコーン派生物が、ハイフラクトース・コーンシロップ。(日本語では異性化液糖というらしい)。安く糖分が作れるようになり、その糖分がたっぷり入った炭酸飲料も安く作れるようになった。というわけで、1985年以降アメリカのコークはこれが入ってます。(ハワイでボトリングしてるコークは違うらしいが。)その後もどんどんHFSCは安くなっていくのだが、売上を増やすのは大変。どんなに安くしても普通の人間は一回に一杯しか飲まないから。「だったら一杯の分量を多くして売上を伸ばそう」、というマーケティングの論理で巨大化したのが、アメリカのスーパーサイズ飲み物群。飲み物だけでなく、ファーストフードの食べ物にはありとあらゆるコーン精製物が保存料、味付け、ツナギ、等々として入っている。しかも肉牛の主たる飼料もコーン。フライドポテトをあげる油もコーン油が多い。ということで、飲み物と同じ論理でどんどんでかくなっていったらしい。つまり、ジャンクフードに依存するアメリカ人の食生活は、ひたすらコーンを食ベているような状態にある模様。ここまでコーンの精製技術が進歩する前、19世紀初頭は、大量に作られるコーンのはけ口として「コーン・ウィスキー」が大量消費されたそうな。私全く知りませんでしたが、当時のアメリカ人は当時の国民一人当たりウィスキー消費量は5ガロン、19リッターもあったと。毎日平均誰もが50CCのウィスキーを飲んでいたことになる。赤ちゃんまで全部入れた平均値でこれだったそうです。朝・昼・晩ウィスキー、会社でも11時に「the elevenses」と称して会社支給のウィスキーが出るのが普通だったらしい。で、もちろんアル中、その他の病気、家庭崩壊、暴力沙汰が蔓延し、ゆり戻しで禁酒法の時代に至ったわけです。そして、今、当時のアルコールの代わりとなるのがハイフラクトース・コーンシロップ。恐ろしいことです。なお、コーンから普通の砂糖より甘い糖を精製する酵素を60年代に発見したのは日本人だそうで、これがハイフラクトース・コーンシロップのブレークスルーになったそうな。(その後のアメリカ人の肥満ぶりをみれば、どんな戦争を仕掛けるよりこの酵素発見がアメリカにダメージを与えたかも。)ちなみに、アメリカでは「corn-fed beef」というのが美味なビーフの代名詞として使われる。日本語でも「穀物飼料で育った優良な牛」なんてな表現を見かけることがある。しかし、実は牛は「草」を食べる草食動物で、とうもろこしは体に合わないそうです。コーンはカロリーが高いのでどんどん大きくなり、14ヶ月で400キロ以上に達し、肉には脂がのる、というのが最大のメリット。しかも安い。が、通常中性の牛の胃が酸性化し、そこから連鎖して肝臓がやられる。こうした中、牛の健康をキープするため大量に抗生物質を投与してなんとか1年ちょっと持たせる、というのが「corn-fed beef」なんですな。もっと正確に言うと、「投与」とかいうおしゃれなもんじゃなく、病気になる前から飼料に混ぜてバリバリと毎日食べさせて何とか一生を終えさせる、と。アメリカの抗生物質消費のうち、殆どが家畜向け、だそう。最近、カリフォルニアで「立てないほど病気の牛を食用にしてはならない」という法律ができて話題になりましたが、これを聞いて「・・・・ってことは、今まで立てないほど弱った牛も食用になってたわけ?」と背筋が寒くなった人も多いかと。実際そういう牛を、電気ショックや放水で追い立てて動かしている情景が暴露ビデオに撮られたのが今回の法律の元となったのですが、その牛は「学校給食」に使われていたという・・・・。ま、しかし、結局歩ける牛も殆ど病気、なわけで五十歩百歩かも。ちなみに日本の牛の飼料も殆どがコーンか大豆カスだそう。草で育った牛を求めるのは中々難しいことであります。この本にはまだまだいろいろあるのですが、またの機会に。
投稿者: On Off and Beyond 投稿日時: 2008年7月28日(月) 19:01- 参照(214)
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