散歩道に鳥の死骸を見つけた。地方版の記事で、鳥の死骸を見つけたら、その筋の業者が処理してくるというのを思い出した。そのついでに、おぞましい過去の記憶も鮮やかに甦った。数年前の秋、いつもとはちょっと違う響きの、妻の甲高い金切り声が聞こえた。重い腰を起こし、前庭に出てみると、やけにカラスの鳴き声が聞こえる。妻の指す指先を見てみると、そこには一羽のカラスの死骸。電柱の真下なので、おそらく病気で力尽き、そのまま落下したものだろう。それはともかく異様なのは、我々の頭上に、10羽を越えるカラスが電線に泊まり、「カアカア」と泣き叫んでいるのだ。とっさに手袋をはめ、バーベキューで使うトングを持ち、我が家の前の空き地まで運び、そのまま柿の木の下に放り投げたのだが、その間、カラスは鳴き続け、しかもそのカラスの重いこと。何度か路上に落としながら、しかも仲間のカラスが頭上から襲ってくるのではないかと、ビクビクしながら投げ捨てたのだ。翌朝、けたたましいカラスの鳴き声で起きた私は、恐る恐る玄関を開けてみると、またもカラスの大群が飛び交っているではないか。不審に思い、前庭を見ると、おびただしいカラスの黒い羽が前庭に散らばっている。しかもよく見ると、そのカラスの原型を留めていない残骸がころがっているではないか。どうして空き地に捨てたはずのカラスがうちの前庭にいるのか、もしくはまたべつのカラスが死んだのか。頭の中は真っ白なんだが、ともかくこの状況を振り払うべく、軍手をはめ、またもその残骸を処理しようと思ったのだが、頭上から聞こえる泣き声に圧倒され、いつ襲われるのか気がかりな上、妻の金切り声とカラスの合唱で動揺に動揺が重なり、思うように身体が動かない。なんとか気力を振り絞り、頭上のカラスを納得させるべく、空き地の柿木の下にショベルを持って走り、穴を堀り、そこに死骸を入れて土をかけた。そして熟れすぎるほど熟しきった柿の実をひとつちぎり、その上に置いて走って家に逃げ帰ったのだ。憶測ではあるが、病死したカラスを見て嘆いていた仲間は、その死骸を投げ捨てた人間を見ていた。それでまた嘆いていたところに、野良猫が遊びがてらに引きずり回し、たまたま我が家の前庭に持ち込んだのではないだろうか。前庭の芝生にこびりつくように散らばっている抜けた羽を拾いつつ、そう思った。でもその羽はなかなかうまく取れず、時間をかけてひとつずつ掴み取っていったのであるが、、電線に泊まっているカラスたちは、もう泣き叫ぶことはなかった。
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