アメリカの大統領選は、オバマの勢いがとまらない!という感じがします。前回のエントリで、オバマは「統合のシンボルとしての期待が高まっている」と書いたのですが、2月8日の溜池通信がより詳細に分析しており、また同感することが多いので、大統領選に興味がおありの方はお読みになってみてください。岩国の選挙、沖縄の事件、日本の無理心中、アメリカの続発する乱射事件、、、気になることはいろいろありますが、今日は表題の内容を。国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)(2007/10)佐藤 優商品詳細を見るトロイといえばトロすぎるのですが、文庫版が出たのを期にいまさらながら読んでみました。佐藤氏の文章や対談は雑誌などでは良く読んでおり、異能の人であること、めずらしく左右両翼に支持されていることなど、興味はひかれていたのですが、「わざわざムネオ事件や外務省の内情は知りたくはなし」と迷っていたのです。結果から言えば、「あの当時ではなく、今読んで良かった」と思いました。ハードカバーが出た2005年3月当時は、まだ小泉ブームの最中であり、9月の郵政総選挙で小泉チルドレンが大量に当選する半年前だったのですね。そのときは、堀江貴文も出馬していました。アメリカ主導の新自由主義を推進すると同時に、国内の右派を取り込むべく靖国を参拝し続けた小泉政権のピークだったわけです。2001年4月の小泉首相就任、2002年5月の佐藤氏逮捕、2005年の有罪判決、ところが2006年に入ると「国策捜査」の矛先は小泉政権の「新自由主義」の旗振り役だった堀江、村上両者へと向けられる、、、。こうして振り返ってみると、いってみると「検察庁」というところが、時の「国家」だけではなくて、微妙に国民の顔色もチェックしながら、それなりに日本という国の舵取りの一翼をになおうとしているんだなあ、とわかってきました。ムネオ事件の時は、鈴木宗男氏について「自殺したタカ派の中川一郎の秘書だった、土建系の政治家」という印象しかなく、北方領土交渉をはじめ、対ロ外交でこれほど要の人物であるとは知りませんでした。今振り返ってみるからこそ、小泉時代に、外務省内での地政学重視派(アメリカ盲従でなく、中国、ロシアなどとの力学も重視する)が力を失ったこと、政権にとってむしろロシアと平和条約など結ばれてしまうと都合がよろしくなかったことなど、クリアーに見えてきます。佐藤氏は歴史の必然という視点から、なぜ自分がこのとき国策捜査の対象になったのかを考え抜き、利権分配型から新自由主義へという経済面の転換と、ナショナリズム&排外的傾向の強化という二つのベクトルの交差点にいたからだ、という結論を出します。それと同時に、基本的に個人の自由を重視する新自由主義と、国粋的なナショナリズムが矛盾なく共存し続けることはできないはずだ、と見ていました。(それはリベラルブロガーが共通して持っていた視点でもありますよね。)文庫版の帯にあるとおり、この新自由主義的傾向にはすでに国民の多くがNOを言い始めています。一連の食の安全に関する事件は、「規制緩和」という言葉を時代遅れなものにしてしまいました。(2月12日のNBオンラインには後藤田議員による「規制緩和論者はもう、かなり少数派」というインタビュー記事がのっています。)経済面では行過ぎた規制緩和に歯止めがかかるとして、さて外交の方はどうなのでしょうか。佐藤氏のように、「ヒュミント(human intelligence)」を重視するような、実力のある外交官はどれほどいるのでしょうか。ハタから見ている限り、捕鯨で突っ張っていることが話題になるぐらいで、対米依存以外の姿勢は見えてきません。これも溜池通信(2月12日)の受け売りですが、日本は「明確な戦略に沿って動くより、外部からの衝撃に反応する形で行動する」といわれるが、それをマイナスに受け止めるのではなく、日本は「戦略のない国」=「リアクティブな行動をする国」であることを、深く自覚した方がいいと思う。「戦略国家を目指せ」などと言う人がいますけど、この国はそういうタイプではないでしょう。ただし、米中関係がどう動いていくかは、キッチリ見ておけばいい。その上で、日本のポジションを決めていく。自己を強く主張することなく、淡々と流れに沿って物事を進めていくというのは、その方が日本人の気質にも合っていると思うのです。と捕らえるのもありかなあと思います。かんべえさんも結論として、『日本が目指すべきは「情報分析国家」ということになると思います』といってますしね。佐藤優氏はWikiによれば2008年より早稲田大学大学院に設置されたジャーナリズムコースで、講師としてインテリジェンスを踏まえたメディア論について教鞭をとることとなった。 裁判の終了後に正式な教員となる予定だそうです。イスラエルに同情的であること(元外交官の天木直人氏にも批判されています)、南北朝の南朝を正当としていることを批判されたり(誰に批判されているか忘れましたが、司馬史観では天皇親政の南朝を異端としているんでいたっけ)、突っ込みどころの多い人ではあると思いますが、「国内亡命者」としてではなく、若手の養成に関わってくれるというのは歓迎すべきニュースであると思います。
- 参照(250)
- オリジナルを読む