この2週間ほど行ってきた大量合成が、ようやく一段落しました。ほぼ予定通りに進み、約800グラムのほとんどピュアな租生成物を同僚のVに引き渡し、最後の結晶化をまかせて、日曜日からの出張に出発できそうです。特に最後のステップは酸化還元で発熱をともなう反応だったわけですが、300グラム超のスケールで3回、無事にまわすことができました。そんなことをやっていた矢先、In the PipelineでC&ENの"Runaway Reaction Led To Four Deaths"という新着記事を紹介していました。それは2年前にフロリダのT2 Laboratoriesという会社で起きた恐ろしい爆発事故についてのもの。12名の社員中4名の死者と4名の負傷者、さらに28名の周辺住民も負傷されたようです。ガソリン添加物として使われるmethylcyclopentadienyl manganese tricarbonyl (MCMT)という化学物質を、2400ガロン(約9200リットル!)というスケールで製造しているさなかの事故でした。その爆発で、破片は1マイル(1600メートル)先まで飛び散ったそうです。ブログの方では、現場の写真に加え、直径10センチほどもある撹拌シャフトが舗装路面に突き刺さっているところや、分厚い反応容器の一部が130メートルも先に落ちている写真を引用していますので、見てみてください。ブログ著者のDerekも強調していますが、この会社では同じ反応を同じスケールで174回やってきて、175回目にこの事故が起きたのだそうです。その原因として、当日水道にトラブルがあり、反応容器の冷却がうまく行われなかったために、反応が暴走(runaway)」したものと結論付けられ、最近になってその報告書が公開されたということのようです。ただしこの会社では、事故には至らなかったものの、ヒヤリとした出来事が数回あったらしいのですが、その原因や対策などについて、何ら対応がされていなかった模様。さらにひどいのは、この会社のファウンダーでもあるケミカルエンジニアが、こんな大きなスケールで製造する前に、ほんの数回グラム単位での検討しかしていなかったということ。一気に10000倍ものスケールアップをしていたということで、これはやはり無理がありすぎです。A previous CSB study found that over a 20-year-period, U.S. chemical companies had 167 serious reactive accidents, killing 108 workers and injuring hundreds more. The T2 explosion shows these accidents continue to occur, CSB notes.調査に当たった Chemical Safety & Hazard Investigation Board によると、過去20年間にアメリカの化学会社は167件の重大な事故を起こし、108名の従業員が死亡し、より多くの負傷者を出していて、今回のT2の爆発は、事故は引き続き起こるということを示していると。特に大きなスケールの化学反応、特に発熱をともなうものでは、慎重の上にも慎重な条件検討や、バックアップ対応を含むリスクマネージメントが欠かせないということです。Derekも述べていますが、熱伝導とか熱交換には物理的な距離が大きく影響します。小さなフラスコならば、フラスコ外側から中心までほんの数センチなのに対し、何千リットルという容器では、メートル単位になりますから、外側からの冷却には桁違いに時間がかかりますし、氷をぶち込むにしてもトン単位が必要なわけで、つまり内部で反応が暴走を始めたらほとんどコントロール不可能ということです。こううのを見ると、数100グラムなんて小さく思えてくるわけですが、それでもそれなりのリスクはあるわけで、無事にすんで本当にヨカッタとつくづく思いました。

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2009年9月18日(金) 20:45