shinjuこの本もたまたま図書館で興味本位で手にとって借りてみた一冊で、借りたものの読み終えることはあるまいと思っていたけれど、完読。この表紙の顔が、社会の教科書に載っていたら間違いなく落書きされているけれど、この淵田美津雄なる人物の辿った人生はこの上なく数奇。ここだけの話、僕はどちらかというと左翼的考え方の持ち主で、戦争物に手を出すなんて珍しいのだけど、この本の前半の戦争体験記は、その後に辿った作者の数奇な人生を引き立てるためにあったかのように思えてしまう。この本は、真珠湾攻撃総隊長であった淵田美津雄の自叙伝。実は真珠湾攻撃総隊長の名前が淵田美津雄ってのも今回初めて知ったんだけど。無知でスンマセン…淵田美津雄は真珠湾攻撃総隊長として戦闘機を率い、かの有名な「トラ・トラ・トラ」の電報は淵田美津雄の戦闘機から打電された。その後、ミッドウェー海戦に参加し、原爆投下前日まで広島に滞在し、敗戦時にはミズーリ号での降伏調印に立ち会った。ここまでも十分すごいのだけれど、本当にすごいのはここから。淵田美津雄はこのあとキリスト教に改心。そして、布教活動に勤しみ、アメリカにも何度も訪問。かつての敵であったアメリカ軍のニミッツ提督や、トルーマンやアイゼンハワー元大統領らと面会し、お互いに友情を交わせる。まだ、この辺は分かる。「眼下の敵」って映画もあったけど、敵なのに尊敬し強い絆が結ばれるってのは比較的起こりうることのようだ。しかし、訪ね歩いた教会で、日本軍によって家族を殺害された人たちに数多く出会う。そういった人たちに出会っても、彼は安易に戦争を詫びてはおらず、平和な世界を築くためにキリスト教の布教に努める。特に、真珠湾攻撃の日にハワイで出産したが、同日、夫を失ってしまったアメリカ人未亡人との対話は胸が熱くなる。人はここまで変われるものなのでしょうか。淵田美津雄は1966年にアメリカ市民権も取得したのだそうで(この情報はwebから拾ったもの)。真珠湾攻撃総隊長がアメリカ市民権獲得ってのも数奇な話ですよね。キリスト教に改心してからがこの自叙伝の核心だと思うが、真珠湾攻撃のくだりも面白い。真珠湾は水深12mしかなく、当時の魚雷は水深60m以上ないと使えなかった。だから、アメリカ軍も真珠湾に魚雷攻撃をされるとは考えていなかった。日本は水深12mでも魚雷が使えるように鹿児島で訓練し、なんとかギリギリに間に合わせたのだそうな。小説じゃないので、夢中になって読むような本では無いけれど、日本の歴史の一端を知る上で、お勧めの一冊です。

投稿者: Franklin@Filbert 投稿日時: 2009年8月9日(日) 06:22