1週間前にリーマン倒産近しの報道を目にしてから、メリル・リンチはバンカメに身売りし、AIGが事実上国有化されることになり、、わたしの中では一時代が終わった、という強い感慨があふれています。巷では「投資銀行」モデルの終わりであるとか、これが世界恐慌につながるかどうか、という文脈で多く語られているわけですが、これは数十年単位の歴史の方向性の変化を象徴する出来事と捉えるのが正しいと思います。19年前東欧諸国の民主化以来、「資本主義の勝利」や「歴史の終焉」ということが言われ、それまで存在した「イデオロギー闘争」というものが消滅し、資本主義諸国内部の社会主義勢力がどんどん弱まっていった。そこで企業側も無節操に「規制緩和」や「法人税の免税」などを要求し、いわゆる「新自由主義」がのさばっていった。それが日本では「構造改革」キャンペーンとしてあらわれていたわけです。市場資本主義が機能する前提としては、市場の参加者にある程度良識があることが条件ですが、それが期待できなければ規制によって行動を制限するしかありません。ウォール街の危機の元凶は彼らが求めた行過ぎた規制緩和にあるとわたしは思います。ビジネスウィークの記事に面白い表現があったので引用します。そうした信念の1つに、キリスト教の伝道集会さながらの熱気を込めてウォール街で説かれるやみくもな規制緩和肯定の思想がある。この考え方の不可解な点は、信奉者の多くが自由市場を信じる一方で、失敗すれば政府が助けてくれると決めてかかっていることだ。 保険業界最大手の米アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)、政府系住宅金融機関の米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ、FNM)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック、FRE)に対する異例の公的資金注入による救済や、その前の米財務省主導の米銀大手JPモルガン・チェース(JPM)による米証券大手ベアー・スターンズの買収がいい例だ。まるで、政府の干渉を拒否してメキシコ湾岸沿いに家を建て、それでいて連邦政府保証の洪水保険を求める家主のようだ。この思想は必ずしもウォール街だけで説かれているわけではありません。たぶん、日本でも米国でも、一般的に「政府は税金をとっては無能な公務員を養って無駄にカネをばらまくばかりだ」という一方で、自分のいる地方や産業への補助金に対しては、歓迎してきたはずなのです。カネをとられるのも、ルールにしばられるのもいやだけれど、困った時には助けてほしい、というわけです。たぶんそこに欠けているのは、社会を気付くためには構成員全体の協力や貢献が必要だ、という公共心というか、社会性というものでしょうか。ようするに、北欧式の、高負担、高福祉を成り立たせている社会へのまなざしがそこにはない。だけれど、さすがに今回の危機を通して、市場万能信仰は薄れ、経済社会のバランスの舵取りは連銀議長の利率操作だけでは不十分だ、ということが明るみに出るのではないでしょうか。これから米ドルの信用の低下、さらなる世界経済のバランスの変化がおこることはもちろん、市場資本主義のありかたへの見直しが進むことはまちがいありません。これが新たな過激な「階級闘争」的な色合いを帯びるのか、それともよりおだやかなオールタナティブ運動として進むのか、それはどんなリーダーが登場するのかにもよるのでしょう。わたしがはたちの頃、東側陣営がどんどん崩壊してゆき、資本主義の勝利が高らかに宣言された。そして20年たって、いまの資本主義のありかたは、リスクの面でも、環境の面でも持続可能ではないということがどんどん明るみにでている。そんな感慨でいっぱいの今日この頃なのであります。

投稿者: みーぽんのカリフォルニアで社会科 投稿日時: 2008年9月18日(木) 16:10