2007年最後の週末。クリスマスも終わり、休暇ムードから、街は次第に平常の活気を取り戻しつつあります。でも、ここにいる一組の男女には特別な週末。

女はこの週末が明けた2日後には、海の向こうにある遠い遠い生まれ故郷に、一旦戻らなくてはなりません。そして、寒い冬が過ぎ、その地のツクシが顔を出す頃にまた海を渡ってくるのです。
男は、しばしの別れがやってくる直前のこの週末に女を驚かせようと密かに計画を立てます。でも不器用な男はどう切り出したものか考えます。結局、一言「この週末、予定を入れずに空けといてよ」とだけ男は女に伝えます。

そして、土曜日がやってきます。
泊まりの用意をさせて女を車に乗せると、男は車のエンジンをかけ、行き先も告げずに車を走らせます。

「ミステリーツアーへようこそ」

男は自分でそう言いながらも、子供染みた表現に照れ笑いをしながら、車を南へと走らせます。女はどこに行くのか検討もつきませんが、子供のようにワクワクと期待で胸を膨らませています。あぁ、このあとの女が深い悲しみに襲われるのをこの時点で誰が想像できたでしょうか。

第1の扉)惨劇の館

一時間ほど車を走らせたあと、車は、とある街のダウンタウンに停まります。いつの間にか天気は悪くなり、小雨が降り出していました。車を降りた二人が人ごみの中を抜けると、目の前には鮮やかなオレンジ色の建物が飛び込んできます。周りの建物との調和を乱すその建物は、どことなく不気味でもあります。

男は女の手を取って、そのオレンジ色の建物へと誘います。
カーテンで仕切られた向こうの、ほの暗い部屋へ踏み入れます。そこは大きな部屋で、何かが薄暗い中に展示されているのですが、それが何か暗くて良く分かりません。その展示物に近づくと共に、次第に目が暗闇に慣れてきて、その展示物が赤みを帯びた物体であることが分かります。

一体何なんだろう? 女は目を凝らします。

そこに展示されていたのは、あの青ひげ公ですら驚くほどの、コレクションでした。


切り刻まれた肉体。

背中から肉が抉られ、内臓がむき出しになった肉体。

そこに並べられたのは、死体の数々。

そう、そこはBody Worldの展示会場だったのです。

女は以前にこの展示会に行きたいと言っていたのを男は覚えていました。

以前、二人がプラハを訪れたとき、その地でこのBody Worldの展示会が行われていました。が、残念ながら足を運ぶ時間はありませんでした。

その後、二人がエルパソを訪れたとき、その地でもこのBody Worldの展示会が行われていました。足を運んだものの、たまたまその日は休館日でした。

そして遂に、この地にてBody Worldに足を運ぶことができました。

しかし、案の定、一通りの見学のあと、女は気分を害していました…。

ジェットコースターに乗りたい!と乗ったあとに、頭痛薬を飲み、
辛いものが食べたい!と食べたあとに、お腹を壊し、
そしてBody Worldに行きたい!と行ったあとに、気分が悪くなる...

閑話休題。

男は女を車に乗せると、次の目的地へ向けて車を走らせます。ミステリーツアーはまだはじまったばかり。

女は気分が悪くなったからか、眠りに落ちてしまいました。雨脚も次第に強まり、あたりを濃霧が包みだしたころ、女は目を覚まします。

「ここはどこ?」

夕方になった上、あたりは深い霧に包まれているため女は今どこにいるのか検討もつきません。周りに建物は見当たらず、道の脇には木々と畑が広がっているようです。

~~~ 続く ~~~

投稿者: Franklin@Filbert 投稿日時: 2008年1月10日(木) 05:36