昨年の記事ですが、アメリカ化学会報 Chemical & Engineering News の12月3日号にPharma Adapts(誰でも読めるようです)という特集が。

アウトソーシングの流れや規制、倫理面などの大きな変化の中にある製薬業界に関する様々なfactsが記載されていますが、昨年6月までの12ヶ月間の医薬品売上げトップ10が出ています。データソースはIMS。

クリックすると大きくなりますが、一応書き直すと、

1位 Lipitor(Atorvastatin) ファイザー 高脂血症 $13.5B(約1.5兆円)
2位 Nexium(Esomeprazole) アストラゼネカ 胃潰瘍他 $6.9B
3位 Advair(Fluticasone/salmeterol) GSK 喘息 $6.7B
4位 Plavix(Clopidogrel) BMS アテローム性動脈硬化 $5.8B
5位 Aranesp(Darbepoetin) Amgen 貧血 $5.1B
6位 Enbrel(Etanercept) Amgen リューマチ関節炎 $4.9B
6位 Zyprexa(Olanzapine) Eli Lilly 分裂症 $4.9B
8位 Risperdal(Risperidone) J&J 分裂症 $4.8
9位 Norvasc(Amlodipine) ファイザー 高血圧 $4.5B
10位Seroquel(Quetiapine) アストラゼネカ 分裂症他 $4.2B

Typoがあったらご容赦ください。1位はここ数年断トツでリピトール。特許切れが2010年とか2011年とか言われているので、あと2年くらいは揺るがないでしょう。2位の薬はかつての売上げナンバー1医薬品、プロトンポンプ阻害剤プリロセック(オメプラゾール)の、サルフォキサイドに関する光学活性体。通常カイラリティは炭素上に生じるけれど、サルフォキサイドの場合硫黄原子上にも生じます。オメプラゾールのライフサイクルマネジメントの一環ともいえるかも知れませんが、ラセミ体の薬が特許切れになる頃に活性本体である光学活性体を開発し後継薬とするのは一種の常套手段でもあります。

3位のAdvairはステロイドと気管支拡張剤のコンボをエアロゾル製剤としたもの。成分そのものは新しくないが、いわゆるDDS(ドラッグデリバリーシステム)上画期的な製品。喘息患者さんのQOL向上に大きく貢献しているようです。こういうのは大事だと思う。5位と6位のAmgenの薬はbiologicsと呼ばれるいわゆるバイオ薬。Aranespは第2世代のエリスロポエチンで、赤血球を増加させる生体内タンパク質であるエリスロポエチンに糖鎖修飾を行って血中安定性を増加させたいわゆる組み換えタンパク製剤。Enbrelは腫瘍壊死因子(TNF-アルファ)のレセプターを可溶性タンパク製剤としたもの。上のリストには入っていませんが、バイオロジクス医薬としては種々の抗体医薬がすごい勢いで開発、製品化されていて、シェアを増やしてきています。

売上げトップ10に精神分裂症の薬が3剤も入っていて、3つあわせるとリピトールを超えるんですね。同じ記事の中に疾患領域ごとの統計もあります。

1位 癌関係 $37.5B
2位 脂質(コレステロール)制御 $34.2B
3位 呼吸器関連 $26.5B
4位 胃酸抑制 $24.6B
5位 糖尿病 $22.6B
6位 抗うつ $20.2B
7位 抗精神 $19.3B
8位 アンジオテンシン拮抗(降圧) $17.8B
9位 抗てんかん $14.0B
10位エリスロポエチン(赤血球増多) $13.9B

これらの総和が$230.6Bで、医薬品のグローバルセールスの37%を占めるそうです。分類が領域全体だったり特定の薬のカテゴリーだったりよくわからないですが、高圧剤全体とかでくくればかなり上位にくることでしょう。精神病薬は上記の3剤で全体の7割を占めているということでしょうか。

新薬は高すぎと言われがちですが、それは基本的に、製薬会社が勝手に薬価を決められるアメリカ市場での話。また2007年から2010年までの間で、特許切れにより業界全体で約$90B分の売上げが失われる見込みとのこと。他にもいろいろありますが、製薬会社も決して楽して儲けているわけではありません。

でも自分がひとりの患者になった場合、新しいブランド品はいやですね(笑)。古くて(安全性がよく理解されている)安くてちゃんと効く薬が一番ありがたいですよね。

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2008年1月5日(土) 16:10