今日はちょっと挑発的なタイトルで、昨日の話とは若干矛盾する部分もあるのですが、ここ数年、ずっと疑問に思っていることがあります。それは、ひとつの薬を開発するにあたって、どれだけ環境を悪化させているか、あるいはもしかしたらそのせいで新たな病気を作ったりしてはいないか?というものです。ざっくり言って、ひとつの(低分子)医薬品を開発するには、1万個の化合物を作ってスクリーニングする必要があります(ウチの場合はそんなにたくさん作りませんが ^^;)。その過程で使われる有機溶媒や試薬類、シリカゲルや各種の使い捨てアイテムの量、つまり有害廃棄物の量はとてつもないものになります。この段階までの廃溶媒(使用済み有機溶媒)の大半は焼却処分されます。廃溶媒には様々な種類の有機化合物が溶解していますから、CO2排出のみならず、ダイオキシンのようなものも出るかも知れません。その他の廃棄物も大半は埋め立てになると思われます。開発品が決まると、今度はその特定の化合物を大量に作ります。数100グラムから数キログラム、数10キログラムとスケールアップしていきます。工程(ステップ)数というものがあるのですが、平均すると7,8ステップくらいでしょうか。例えば7ステップだとすると、その薬を作るのには、原料から数えて7回の化学反応を行うことになります。化学反応には収率というものがあって、必ずどこかにロスが出るので、使った原料よりたくさんの分子数の生成物を得ることはできません。分子量が増えると、重さは増えることがありますが、化合物の「数」としては反応を繰り返すごとに必ず減っていきます。つまりステップ数が増えるほど、基本的に目減りしていくのです。その分たくさんの原料や薬品類をつかう必要があります。1日1回10ミリグラム飲む薬だとして、世界で100万人が飲むと1日で10キログラムです。高血圧や糖尿病の薬のように毎日飲むと、1年で3,650キログラム、つまり3.65トンもの薬(原末)が必要になります。これだけの量を製造するために必要な有機溶媒や各種の化学薬品の量といったら、その何10倍、あるいは何100倍、もしかしたらもっとになります。工場スケールでの製造過程で使出た廃溶媒の大半はリサイクルするよう努力されていると思いますが、それでも数パーセントは廃棄されます。例えば協和発酵のこの例だと最終処分量は廃棄物発生に対して2.8%ということですから1トンの廃棄物を28キログラムまで減らしているということです。すばらしい努力ですが、それでもそれだけ出てしまうものでもあります。病気を治す(はずの)ものを作るために、一方でどんどん二酸化炭素と各種廃棄物を出さなければなりません。つまり環境をどんどん悪化させているともいえますから、積もり積もって新たな病気のもとになっていたりはしないのかな、と考えてしまうわけです。でも「それじゃあんた、薬はいらないって言うのかい?」となると、そこまでは言えません。病気になって、これを飲めば治る(飲まないと死ぬかも)という薬があったときに、「私は要りません」、あるいは「うちの家族には飲ませません」とはなかなか言えないと思いますそして薬というのは多くの人がイメージする以上に、多くのシーンでたくさん使われています。ひとたび外科手術となれば、各種麻酔薬に始まり、血圧コントロール(上げ下げ両方)とか、痛み止めとか、化膿止めとか、炎症止めとか、ありとあらゆる薬が使われます。エマージェンシーの場合にこれらを拒否できるでしょうか?つまり、上記のようなダウンサイドを考慮しても研究開発する価値があると多くの人が思う、そういう真に有益な薬を開発すべきなのであって、パイプラインの維持のためとか、当面の経営の維持のためとか、本来の(究極の)目的からはずれた安易なme too drug(既存薬の類似品)みたいなものの開発などは、やはりするべきとは言い難いわけです。もちろん経営が立ち行かなければこの先本当に有用な薬の開発ができないという言い分も出てきそうですが、世の中最高レベルの人たちはあちうこちにいるわけで、その会社ができないのなら、他のどこかがきっとやってくれると思います。どうしてもこの社員でなければならないとう場合は、今いる会社がどうなろうが、その人は他社に招かれていくでしょうし。社員と彼らの家族の生活を守らなければ、というのもありますが、そのためにも先を見る目を凝らし、真にやるべきことに集中し、妥協しない姿勢を示す経営の舵取りが求められるのだと思います。もちろんこれは、言うは易しの典型ですが。もう少し世の中を見渡せば、製造業としては比較的スケール(分量)が小さ目と思われる医薬品業界でさえこれですから、もっと大きな他産業の製造工程で出る有害廃棄物といったらどれほどになるのでしょう。トータルで地球にとってプラスかマイナスかを見たときに、大して意味のない製品開発や、競争のためだけの製品開発などは、どうなのでしょうね。さらに極論になっていくと(笑)、上記と同じような理由で、心や暮らしを豊かにする製品やサービス、とか付加価値の高い製品やサービス、とかいうものにも、どこか疑問を感じたりします。つまり人類が生きるために必須とはいえない製品やサービス群です。でもこれらには、本当に必要とされるものだけが残っていくという自然の(市場の)淘汰システムが働くのでしょうけど、もしもその過程で多くの無駄なものが出るとしたら、何とかしてその前にやめとくことはできないかな・・・と思ってみたり。考え出せばキリがありませんが、でも考え続けて、いつかもっと定量的な調査をして、もっと説得力のある提言ができればなあと思っているわけです。産業疫学とでもいいましょうか、今必要な研究テーマだと思いませんか?

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2007年9月10日(月) 22:00