イントロダクション

2003年1月に当時勤務していた会社をレイオフにになり、その後の転職活動の顛末を「シリコンバレー転職騒動」というタイトルで、当時隔月で刊行されていたバイオベンチャーという雑誌に連載させていただきました。これはその後ウェブ上で公開しています。その連載コラムは、Anacor Pharmaceuticals(アナコア ファーマシューティカルズ、以下A社)というバイオテックのスタートアップに転職を果たしたところで終わりました。その後日譚について書くタイミングになったかなと感じましたので、これからしばらく、書いていこうと思います。

A社は、医薬品としてはそれまで例がなかった、ホウ素原子を含む化合物を新薬として研究開発することに特化したバイオベンチャーです。Stanford大学とPennsylvania State大学の、それぞれ微生物学と化学の教授の共同研究がきっかけとなり2002年に誕生した、いわゆる大学発ベンチャーです。アメリカではそのような呼び方はしませんが。

私がA社に加わったのは会社の創業から1年ほどたったところで、私は13人目のフルタイム社員でした。当時はまだラボのある建物をリースして入ったばかり。これから実験室などをセットアップしようという段階でした。それから13年半の間に、A社は2つの新薬を世に送り出すことができ、さらに3つ目の候補として複数品目が臨床開発段階にあります。思い切り自慢に聞こえてしまって大変恐縮ですが、これは製薬業界においては驚くべき生産性の高さです。そして2016年6月、A社は製薬大手のPfizer社により$5.2B(当時のレートで約5700億円)の現金による買収という形で一つの結末を迎えました。買収というと、何か怖いことのように感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、必ずしもそうとは限りません。有名な例ではGoogleによるYoutubeの買収や、FacebookによるInstagramの買収など、大手企業による買収は、ベンチャー企業の大成功のひとつの形でもあるのです。

ちなみに現金による買収の場合、会社の株式がすべて現金化されます。今回の金額は、一株当たりにすると$99.25で買い取られました。つまり、ストックオプションを含めてすべての株主が所有していたA社の株式が一夜にして現金化され、株主ひとりひとりの証券口座や銀行口座などに振り込まれました。

今回のA社-Pfizerのケースでは、A社が開発したEucrisaという新薬がその中心にあり、$5.2Bという買収価格のすべて、もしくは大部分が、この新薬につけられた価値でした。買収当時の社員数は120名ほどで、買収価格を社員数で割ると、ひとり当たり約48億円となり、まあこの数字自体には何の意味もありませんが、いわゆるバイオベンチャーの結末としては、大成功の部類に入ると言っていいと思います。

それに伴い、私のA社での勤務は2016年12月で終了しました。13年半に渡る勤務の過程での経験や学びは私にとって大変貴重なもので、それらをシェアすることは、単なる自慢話やオヤジの説教みたいな話に聞こえてしまう部分も多々あるかも知れませんが(汗;)、それでも一部の方々にとっては興味があるものだと思います。そこでこの場で、A社での私の経験、およびそこでの学びなどを振り返りつつ書いていきたいと思います。とりとめのない話になると思いますが、予定としては下記のようなトピックを考えています。

どんな薬を作ったのか
プロジェクトマネージメントの重要性
前に進む勇気とスピード
本当のフレックス勤務とは
緩急の重要性
アメリカの人事評定プロセス
楽観主義の重要性
人生とはプロジェクトの連続である
人生とはリスクコントロールの連続である
人生の最適化

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2017年2月3日(金) 23:31