つい先日まで「もっと押して、もっと高く!」と何度も繰り返し声を張り上げては、揺れ幅の小さくなったブランコを押させていたはずなのに、今日は違った。ぴろ子を乗せたブランコは、質量保存則を守るかのように一定の振り幅を長いこと保持し続けている。
ブランコ、一人で漕げるようになったんだ。
閑散とした平日の公園。真っ青な空に吸い込まれるように、ぴろ子はひとり楽しそうに声をあげながらブランコを楽しむ。
僕は少し離れた木陰のベンチに腰を下ろし、振り続けるブランコを眺める。
ヨチヨチ歩きで、まだ手の届かない幼児用ブランコに乗せろとねだるぴろ子を抱えあげたのはつい先日のことだったのに。
行ったり来たりを繰り返すブランコに座ったぴろ子を見ていると、なんだかブランコが振り戻る度に、ぴろ子が成長していくような、そんな錯覚を覚えた。ブランコに揺られる4歳児はいつしか、あどけない少女になり、そして、ぴろ子の面影を残した女性になっている。風に揺れる髪を追いかけるように白いブラウスが揺れる。
ぴろ子が成長していく一方で、僕はどんどんと小さくなる。背は丸まり、手足の筋肉は落ち、骨と皮の老人に。
一筋の涙が僕の目からこぼれる。
いつもと何も変わらない日常のひとコマなのだけれど、大きな幸せを感じた、と同時に、家族に対する責任が大岩のように重いことをひしひしと感じた瞬間。
ぴろ子が、僕の見た幻の大人になるまで、僕は近くにいてあげられるのかな。
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