2014年9月5日(金)
早朝、喧騒のベイエリアを離れて一路東へと車を走らせる。通勤ラッシュで込み合う対向車線を尻目にサンフランシスコ湾を渡り、はるか遠方まで続くセントラルバレーの果樹園過ぎると、胸が高鳴る。遠方にシエラの高峰が姿をあらわす。
ゆっくりと牧草を食む牛の群れを見ながら、アクセルを強く踏みこんで、うねうねとはるか彼方まで波打つ丘陵地帯を登っていく。水位が異常に低くなったサンペドロ湖を渡り、急な峠道を登り、小さな宿場街を通り過ぎ山道を行けば、ヨセミテの西ゲートのサインが現れる。
ゲートを通過し、多くの車が向かうバレー方向へは向かわずに、120号線を東進し続ける。テナヤレイクの宝石のようにきらめく水面の誘惑にも、ツオルムンメドウを吹き抜ける心地よい風のささやきにも、迷うことなく車を走らせる。カリフォルニアのハイウェイでの標高最高地点のTioga Passを過ぎたところで、今度は進路を北へ変え、未舗装路を少し登った先で、車を停める。
Saddlebag Lakeのパーキングは金曜日の日中とあって、ガラガラだ。はやる気持ちを抑えてバックパックの荷物を確認。登山靴に履き替え、靴紐を締めなおし、荷の詰まったバッグパックを背負う。高々一泊とは言え、日ごろの運動不足で訛った体にはこのバッグの重さはずしりと堪える。普段の山歩きには持って歩かない一眼レフカメラ、交換レンズ、そして三脚が更に荷を重くしているのは明らかだ。両肺の空気をすべて吐き出し、新鮮な山の空気をいっぱいに吸い込む。再びここに来れた感慨にしばし浸る。
水不足のカリフォルニアとは言え、Saddlebag Lakeの水位は十分に高く以前来た時とそれほど変わらない。湖上に浮かぶ桟橋を歩けば、気持ちよさそうに水の中を泳ぐトラウトの泳ぐ姿はもちろん、湖底に転がる石の色まではっきり分かるほどだ。桟橋に接岸された水上タクシーに乗り込む。客人は僕一人。ボートは桟橋を離れ、陽光を照り返す湖面を切るように対岸へと進んでいく。
ボートが進むにつれ、今まで隠れていたNorth Peakが姿を現す。名の知られた山ではないものの、20 Lakes Basinから眺めると、ひときわ高く聳えている上に、垂直に切れ落ちている大壁があるため、実際の標高以上に高く感じされる。かつて、友人らとNorth Peak登頂したことが懐かしく思い出される。
Saddlebag対岸に降り立ち、すぐ隣にあるGreenstone Lakeまで歩き、テントを張るのに最適な場所を探す。
テント設営後、既に日は傾いていたが、久々にConness lakesまで歩いてみたくなり、必要最小限の荷物を持ってテントを後にする。
Greenstone Lakeに注ぎ込む小川に沿って上流に向かって歩いていく。Conness Lakesまではオフトレイル。自分で道を探して歩かなくてはならないが、そこそこの踏み後は出来ているので難しいことはない。Conness Lakeまでは階段状の地形が形成されており、ひとつめの登りを終えると、土地は平らになり、緑が広がる小さな草原を小川が緩やかに流れる。その草原を過ぎると、滝が現れる。その滝に沿って急峻な岩肌を登る。
岩肌を登りきると、突然に視界が開け、眼前に花崗岩のカール地形が現れる。氷河が削り取ったボウル地形の底が今自分のいる位置だ。そして、前方にはエメラルドグリーンの湖がある。Lower Conness Lakeとの数年ぶりの再会。
誰もいない湖畔で仰向けになり、湖を渡る風を頬に感じながら、雲ひとつない青空を見上げる。しばし、贅沢な時を過ごして、テントへと戻る。
日が落ちると共に吹き続けていた風はぴたりと止まり、静寂の包まれる。心臓の鼓動が耳に聞こえるほどの静けさ。月もいつしか山の向こうへ落ち、満天の星空が広がる。
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