C&ENがしばらく積ん読状態だったので、ぱらぱら見ていたら、去年の12月13日号にちょっと衝撃的なグラフを含む記事があったので、いくつか拝借してご紹介。アクセスはACS会員のみですが、For Gathering Storm, Clouds Ahead というタイトルで、内容は中国のサイエンス(おもに化学領域)に関するものです。

まずはこの10年ほどの中国からの論文数

日本、ドイツ、フランスなどが微増なのに対して中国発(少なくとも著者の一人が中国にいる、他国も同様)の論文数は急勾配で増加し、2008年にはこのグラフの国々の中でトップになっています。多分アメリカ発にはまだ遠く及ばないのでしょうが。

そして国家による化学領域へのファンディングですが、この10年間に5-6倍の伸び。

そして化学関係の特許出願数の変化ですが、こちらは2005年から急増。こちらは日本もアメリカも大きく抜き去って断トツの世界一になっています。

ただしこの記事は、タイトルも示唆しているように、中国すげー!というものではなく、どちらかというと中国の自然科学政策に警鐘を鳴らしています。Wan Gang科学技術大臣は、2015年までにイノベーション主導型の国になるという目標を掲げているそうです。そして資金を注ぎ、海外に出ている優れた才能を呼び戻すための、Thousand Talents Program というのを開始し、2008年以来800人の研究者や起業家をリクルートしました。そして今後5年から10年のうちに、さらに1200名を呼び戻す予定だそうです。

しかしそこには批判の声も多いと記事は指摘します。その多くは何を持って才能と認めるのか、これらの人々の採用のプロセスが不透明だというものです。そしてこのプログラムで戻った人の多くが、実は大した実績がなかったり、フルタイムの給料を中国の組織から得ているのに、ほとんどの時間を海外で費やしているといった声もあります。

また増加する論文数も、数で評価するシステムがあるからで(これはどこも同じ?)質を落とすだけ、質を上げたいなら数はむしろ減らすべきだとの声も。まあ一理ありますが、とはいえ数を減らせば質が上がる保証もないわけですし、ハイレベルのラボからは数も出るということもありますから、これは難しいところですね。

そして国内の研究者のやる気をそいでいるとも。自分たちだってまったく同じレベルの研究をしているのに、給料はずっと少ないという不満です。さらに、クリエイティブで最先端のアイデアはしばしば若い研究者から出るのに、Thousand Talents Program の基準だと過去の栄光にすがる人やすでにいいポジションにあってモチベーションが低い人ばかりになって、これから才能を発揮し活躍できる人材は集まらないとも。

ひとつの問題はお金で、中国では博士課程の学生やポスドクに対する平均的な支払いは、北京でさえ毎月150USドル程度なのだとか。従って外国で同じ仕事や研究をするチャンスがあれば、彼らがどちらを選ぶかは明らかだと。その他にも事務や予算手続きの不便さや非効率性などいろいろ文句が出てますが、おそらく中国の化学研究における最大の問題は、学生や研究者の情熱が失われつつあるということのようです、記事はこんなふうに結ばれています。
“More people think of research as a job, instead of a lifelong passion, It’s pretty tough to be creative at something you have no passion for.”
「研究を、単なる「仕事」と考える人が多くなっている。情熱を持たずしてクリエイティブであることは非常に困難だ」

投稿者: A-POT シリコンバレーのバ... 投稿日時: 2011年2月5日(土) 13:55