昔、場内にあった天ぷらうどん屋さんが午前4時頃からゴマ油を効かせた油で揚げていく海老天の狂おしさ、開け放たれた窓と換気扇からでるそのこうばしい香りに耐え切れず何度か窓から顔をつっこんだけど、「まだやってないから」とそっけない親父さん たまらんなー 好きだった下町商店街の惣菜天ぷらに厚めの芋があって、冬場に下半分を紙に包まれたその上を齧ろうとすると手がプルプル唇はアチアチの たまらん 子供の頃うちで食べてた掻揚げは小エビに小柱、ちょっと玉葱がはいったもの、それをどっぷりつゆに浸してご飯の上にのせる たまらんなー 何度かきあげを食べようとも幸か不幸か記憶を上回るものに巡り合わない
まだまだ色々あるのだけど、どれが好きかといわれても これだ!というのは決めかねる いつ頃だったか、揚げ物の雰囲気のない店内、数ミリの衣、軽いサクサクのさわりから鼻にぬける材料それぞれの香というのが "たまらん" に加わった そのお店にいらっしゃった方というのであの "たまらん" はどうなったのかと
<夏鮑>途中、数回入れ替えられる薄い琥珀の太白油、店内は音無、油が素材を包み込む時にたてるザーッという音が軒下に落ちる雨のポツポツ音に変わるところまで聴き入れる 続々登場してくる野菜の甘みと香気、厚みを感じさせない烏賊、淡い白身が爽やかなキス、ほどよい大きさのアナゴが天ぷら箸でざっくり切ら立ち上る白い蒸気、良い時というのは過ぎ行く時間の長さを感じさせてくれず終わりをつげます
天ぷらを食べた後のもたれ感もなく地上に戻ると外は土砂降り、たまらんなー
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